第9話

ええ、里帰りです。と言いカメラ目線になる。

背景は山の中。自撮り。

まだ撮れるじゃんとつぶやいた後、

「久しぶりに会いに来ました。

義人と克馬、連絡つかないから

どうしてんだろう」

 二人とも思い出した。確かに来ていた。

「とりあえず、

秋山さんに会いに行ってきます」 

 と言い、歩みを始める。 

やっぱり地元はいいなあと言っている。

ザッと音がしてあたりを見回す。

やはり何かの気配を感じる。

 ハッと声を出しカメラが地面に落ちた。

カメラが転げ落ち、

上手いことカメラはこちらを向いている。

死んだふりだ。息をひそめている。

すると目の前をのっそのっそと歩く

中型くらいのクマが匂いを

かぎ分けながら歩いている。

人生と言うのはやはりタイミングなのか、

偶然ポケットにあるスマートフォンが鳴る。

静かにポケットに手を近づけ

電源を切ろうとする。しかし上手くいかない。やっと止めることができた。

気づけばクマの姿はなかった。

生憎にも帰郷を知らせる連絡が届いた

森屋からの着信だった。

その日の夜言っていたクマに

あったという話は嘘でなかった。

電話越しだけれども。

 立ち上がりカメラの方へ向かってくる。

死ぬかと思ったと呟く。

 と画面が暗くなっていく。

「なんか笑えるな」

 そう言うと小仏も笑いながら泣いた。

声は確かに震えていた。

「やっぱ辛いよ」

「俺もつらいわ」

「苦しいな」 

「まああいつのことだしな、

上手くやっていると思うよ」

 と残して。


そのカメラは徐々に二人から離れていく。

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