第8話
そうして秋山といろいろな話をして
一夜を過ごしたそう。
カメラは山のふもとの公園に
映り変わっていた。
秋山もカメラに映り、
またも自撮りをしている様子だ。
「おじさんありがとう」
と告げる泉。おうと答える。
「ここで過ごしたことは
何か適当に嘘でもついといて」
と秋山は言う。
あまり嘘をつかない泉がついた嘘が発覚した。
それも誘拐されそうになったと
言ってしまっているけども。
「最後に質問していい?」と泉は言う。
「どうして怖い思いをしてまで
あの家で暮らすの?」
と。すると秋山は、
「家族の帰る場所だからだよ」
と言った。
式場での冴島の言葉を思い出した。
画面は映り変わったが、
クマに襲われたおじさんの話。
急いでポケットにあった
スマートフォンを開く、
光がまぶしかったのか隣の小仏もそれを見る。検索の場所に触れ、
『クマ 殺傷事件』と検索する。
一番上の方に出てきたのは最近の事件、
これだと確信したのは今いる
この街だったことだ。記事をタップし、
出て来るまで待つ。スマートフォンを持つ
手が汗で湿る。出てきた記事を読むと、
『田舎町の山に現れた熊、
男性を襲い男性死亡』と。
細かい記事を読むとこう書かれていた。
『一九日未明、山奥に住む男性
秋山賢三さん(68歳)が遺体で
発見されました。遺体は損傷が激しく、
身元を特定するのが難しかったと
現地の警察は語る。男性の娘は
数十年前にクマに襲われて死亡、
生憎にも家族ふたり目の犠牲者であった。
クマの全長は二メートル四十センチにも及ぶ』
その記事を読んだ瞬間、
小仏と目を合わせた。
映像内でのあの笑顔が過り胸が痛んだ。
静かにスマートフォンの電源を切る。
スクリーンには隣にいる小仏が映る。
珍しく泉は映っていない。
「で、どうなった?」
と泉が問うと、「また殴られた」と言う。
泉は小仏の右腹にある痣に気づいた
唯一の友人であった。
家庭での虐待について知っていた。
森屋はその事実を初めて知る。驚き、隣にいる小仏に聞く、あまり知ってほしくなさそうな顔で内緒にしたかったという。
ホッと肩をなでおろされ画面を見る。
「作戦、もう一回確認しよう」
と泉の声がする。
うんと頷く。
「父親からとりあえず逃げ回って、
そうしてえにし座に逃げ込む。いいね。」
「うん、渡部には言った?」
「言っといた、それでお父さんも
出てくれるらしい。
駐在さんを連れてきとくって」
「本当に言ってんの?」
後ろを見ると渡部の父親が笑っていた。
「そう、それから克馬にも言っといた!」
「なんて?」
「えにし座の前まで誘き出すんだよ父親を。
そしたら渡部の父親と駐在さんの待つ
えにし座の中へ入るんだ。
それを追う父親も入ってくるはず。
その重い入り口の扉が開いた瞬間
克馬がシュート」
「シュート?」
「シュート」
「上手くいく?」
「やってみないとわかんないだって」
そうしてカメラは小仏の住む
アパートの二階を映す。
父親を誘き出しているあいだ、
今から実行と渡部にメッセージを送った。
「おら待ててめえ」
と罵声が聞こえた方を映す。
必死に逃げる小仏、それを本気で追う父親。
それをまた追う泉。ハアハアと息が漏れる。
カメラがはブレブレのまま角を曲がり
フェイントをかける小仏、
それをめげずに追う父親もすごい。
いよいよ目前に迫るえにし座。
全力疾走でえにし座に向かって走り出す。
入り口の大きな扉の手すりを握りしめ、
重たい扉を引く。
空気がボワッと音を立てる。
転がり込むように小仏が中に入ってくる。
地面に転げ床にうつぶせになる。
その途端、勢いをつけ森屋が助走をつける。
待てと言った渡部の声も
むなしくボールを蹴り上げる。
全速力で父親を追う。
重たい扉をグッと引いた途端、顔面に命中。
見事後ろ向きに倒れた。
怯えた様子の小仏が映り、中では
駐在さんが駆け寄り、渡部の父親は一服を
していて、このことを気づかれないように
一発森屋をぶん殴った。
駐在さんが必死に押さえつけ手錠をかける。
「もうこれで大丈夫だからな。
近所の人から聞いていたよ小仏くん」
そう言い残し駐在さんは気絶した父親を
背負い裏に停めたパトカーへ向かった。
「ありがとう」と小仏は口にした。
そこで映像は途絶える。
また違う場面が映る。
今度は大人になった泉の姿が映る。
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