第7話

カメラが映り変わる。どうやら家の中だ。

頑丈な木で作られた壁、

その前には雑貨や日用品が並んでいる。

どこかに固定しているのか、全然ぶれていない。

食卓にはすでにお椀によそった

白米から湯気が立つ。

カメラ目線になり、泉は口を開く。

「貴重なものを見ました。

自分たちが食べている動物の最期を。

少しきつかったけれど、今まで以上に

感謝を込めていただくことにしました」

 料理ができたらしく男性の声がする。

「はいよ、とれたて野菜と新鮮な命、

美味しくいただきな」

 と湯気が上がる鍋を持ち手を

布巾で持ちながら目の前に置く。

香ばしい匂いに美味そうとこぼす。

 続いて取り皿を持ってきて、食べろと言う。

いつもより入念に手を合わせ、

いただきますと言う。

鍋から取り皿へよそり、

湯気が立つ猪肉を頬張る。

生まれて初めて見た命の駆け引きは、

何とも言い難い、

食物のリアルを物語っていた。

「おいしいか」

 と秋山は言う。おいしいと答える。

そっと笑みを浮かべ、自分の分もよそう。

カメラには映ってないが。

すると突然、秋山はあることを言い出した。

「四つ離れた妻が二十年以上前に

亡くなってね、良く褒めていてくれたんだよ、すごいねって」

 箸が止まりそうになる。

「そんで、まあうちの子供たちにも

先ほどのようなものを見せていた。

だがね、妻は癌で先立たれるし、

息子は行方不明。

娘はクマに襲われ亡くなった」

 あまりの衝撃に箸をお椀の上に置く。

先ほど見まわした雑貨の中に

だいぶ昔であろう一枚の家族写真。

四人の家族が笑っていた。

「そうして、あまりの悲しさに暮れていた。

そんなある日、男の子二人と女の子三人かな、猟から帰る途中、ハイキングでもしていたんだろう。時刻も四時半とかでこの山を

歩いていた。それを見ていた時、

遠くの方で中型くらいのクマが

歩いていたのを見た。気づかれたらあの

子供たちみんな死んでしまうと思い、

こっそりと子供たちの方へ向かった。

びっくりさせてしまうと

気づかれてしまうと思い、

猟で使う道具もその時かかったイノシシも

その場に置いたんだ。

上手くいくとは思わなかった。

最初は道を教えてほしいなどと言って、

背後にクマがいるなんて言えなかった。

まあ最終的にはクマがいると

言ったのだけども。冬に差し掛かった時期で

夕が早くに訪れた。

無事に子供たちをこの家に匿うことができた。

 それから今日捕まえた猪を置いてきたことに気づき、子供たちを留守番させ、山に戻った。その日の夕食も無かったからな。

徐々に暗くなっていくので大きな音を

立てながら、老いた場所に向かった。

すると獣のにおいがすぐそばに感じた。

後ろを振り返ると

もうすでに後ろをとらえられていた。

そのまま息を殺し、仰向けに倒れた。

家族を思った。娘の復讐、だとしても

こんな大きなものには勝てない。

ゴオッと聞こえる鼻息、そのまま息をひそめた。それから数分間、目を閉じていた。

するとクマはいなくなっていた。

偶然すぐ近くに捕ったイノシシが残っており、それを抱え急いで帰宅し、

子供たちにごちそうした。

血抜きが遅かった分、

鮮度は落ちてしまったけれども。

君のように彼らはしっかりと

私の血抜きをまっすぐな目で見ていた。

その日はうちに泊まらせて

次の日には山の下まで見送った。

これは誰にも言わないで、

ここだけの内緒と告げてな」

「どうして?」

 と訊くと

「偶然巻き起こったことをしっかり

自分のものにしてもらいたかったから」

 と答えた。

「おかげで誘拐犯か」

 と秋山は笑顔を浮かべた。

 それを見ていた

森屋克馬はあることを思い出した。

いつだったか忘れたけれど

昔おじさんに猪肉をご馳走してもらったと

母親が言っていたことを。

 とにかく美味しかったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る