第5話

最初に映し出されたのは一二歳、

小学六年生の泉が

サッカーユニフォームを着て、映ってる?

などと言いながら

こちらにカメラを向けるシーンから始まる。

「何撮ってるんだよ」

 と小仏が止めようとする。

「俺はカメラを止めません!」

 などと貶し、小仏がそれを追いかける。

さながら鼠を追いかける猫のよう。

ちらっと映る過去の自分。

何してるんだこいつらと

下に見ているようで笑った。

と同時に隣からも笑い声がした。

目が合って笑った。

 とうとうつかみ合いの喧嘩になり、

カメラが地面にごとっと落ちる。

画面がさかさまになる。

うわ!お前!!などと声だけが画面に映る。


 画面が移り変わる。

腕を伸ばして自撮りをしながら歩く泉。

「ええ、今からこの場所で

二人を探したいと思います。

カメラの修理をしていたら

置いてかれてしまいました。

草が覆い茂っていて歩きにくいです」

 と雑草が茂る道なき道を歩く。

「もうそろそろですかね、

声も聞こえてきました」

 そろそろ追いつけるらしい。

昔を惜しみながらスクリーンを見つめる。

カメラを外側に向けると

自然にできた自分と小仏が

喧嘩している様子が映される。

カメラがぶれて見えにくいけれども。

「だから言ったって」

 などとまたしても何が原因か

わからない喧嘩を巻き起こしている。

「何のことだっけ」と隣にいる

小仏が尋ねてきた。

「さあな」と答える。

 仲裁するために割り込む泉。

「まあまあ」と。

「絶交だ!」

 と言ったのは自分の方だった。

「現場からは以上です」

と残し、カメラが止まる。

 あまりにも内容のないその映像は

不思議と見入ってしまうのだ。懐かしい。

 まだ続きを撮っていたらしく、

笑顔の小仏は、

「俺の映画を作ってくれよ」

 と言った直後、

自分も撮ってくれと言っていた。

数秒で仲直りは実行される。


続いての場面は今この場所、

えにし座であった。

先ほど渡部と父親と話を交わしたその場所で

泉の向かいに座るのは当時の渡部だった。

 学校生活でも日常生活でも

一緒にいるところを見たことがない。

こんなところで密会していたなんて。

「そうだよなー、

やっぱりあの撮りはたまらないよね」

「あれはすべてが傑作、本当に!」

 などと、映画関連の話をしている。

常人には伝わらない。

「最新作見た?」

 と泉が尋ねると

「見た見た!」

 と答える。

「全然面白くなかったな」

「な」

 最新作は駄作のようだ。

 

「俺はいつかでっかいカメラを抱えて

名作を作るんだ」

 と言ったのは泉の方だった。

「俺も撮ってやるさ、アカデミー賞狙うぜ」

 と負けじと言い出す。

「どっちが先か競争だ」

 その会話を聞いていた若かりし父親は、

「俺が認めた方だけ

そこのスクリーンで流してやるよ」

 同時に父親を見る。俺は厳しいぞと言う。

 暗い劇場の後ろの方が気になり

目をやると渡部の父親も立ったまま

腕を組み鑑賞している。

 映像は今でも意地を張り合うふたり。

「絶対譲らないからな」

「俺のほうが面白いからな!」

  

 場面は変わり、緊迫した表情を浮かべる

泉の表情から始まる。

当たりを見回してからごくりと唾をのみ、

「今、誘拐犯が現れました」

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