第3話
小仏の運転で一緒に来ていたので、
どちらがカメラを持つか相談している。
「それにしてもなんでそんなに
受け取ってほしかったんだろう」
と小仏が言う。
「置いておくのが辛かったのかもな」
と返す。
「とうとう俺らも二人になっちまったなあ」
「とうとうっていう年齢じゃねえよ」
早すぎた死。ふとした時に過る。
今も信号待ちの人を見てそう思った。
「冴島とは今でも
仲良くなれないだろう克馬は」
図星の質問が来てしまった。
実を言うと昔から冴島のことが気に食わない。
と言うのも特に理由はない。
それからは黙っていた。
少し車を走らせて小仏は、
「どうせならあ寄ってみるか」
とつぶやき、左の合図を出した。
駐車場に車を停め、
小仏よりも先に車を出る。
小仏が車の鍵を閉め、歩き出す。
着いた場所はこの街
唯一の映画館『えにし座』である。
昔ながらのレトロな雰囲気漂う
昭和を感じる映画館だ。
最近の映画は上映しておらず、昔の、
いやだいぶ昔の映画が上映されている。
泉が足しげく通った思い出の地だ。
入り口を抜けるとエントランスに見覚えのある男性が座りながらこちらを見ている。
七〇歳は超えているであろう
白髭が目立つ男性だ。
「おお・・」
と男性は息を漏らす。何かに気づいたようだ。
こちらは知らないけれど。
「泉はおらぬか?」
すぐに気づき、少し奥に行った
ロビーの腰掛で少し話すことになった。
煙が染みたソファーだった。
男性はこれでもかと言うくらいに
腰を掛け、話し出す。
「へえ、亡くなったと」
男性はもちろん泉の存在を知っていた。
やはり時間の流れはものを見せてくれる。
何度かこの映画館に泉と小仏と三人で
足を運んだことがあるが、その当時の男性は
なかなかに厳つく、
怒鳴り声を上げるイメージだった。
今では優しそうで温厚な人柄に
なったように思う。
「映画を撮りたいと来るたび
来るたび私の所へ来ていた、
そんな思い出がありますね」
そうですよねと二人は言い、
何かを伝えようとする男性の目を見る。
目線は自分の持つ泉のカメラ。
溜めていたのか、
あまりにも急に男性は口を開く。
「そのカメラは一体?」
と同時にカメラの方を見る。
「これは、彼が生前大事にしていた
カメラです」
何故、わざわざカメラを持ってきたのかと言うと、
車の中に置きっぱなしもよくないなと思ったからである。
しかし一番はそうではない。
オーナーである男性に気づいてもらうためだ。
幼いころから泉は、
常にショルダーバックのようにカメラを
首から下げて生活していた。
彼が東京に出てからはずいぶんこの映画館に
足を運んでなかっただろうと思い、
所持していたのだ。
男性は微笑ましく言った。
「いつものように持ち歩いていたな、
懐かしい」
自然とこちらにも笑顔が浮かぶ。
昔の男性のイメージとはかけ離れているほどに、その笑顔は優しいものだった。
すると遠くの方から男性を
呼びかける声がした。
「親父」
それに反応した男性は申し訳なさそうに
手を重ね声のする方へ向かっていった。
なぜかその声の呼び主は
聞き覚えのある声だった。
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