第2話
時刻は正午をさし、花に覆われた姿を見る。
棺桶に入った彼の寝顔はたいして
昔のころと変わらないような気がする。
二泊三日のサッカー合宿の
楽しみはやはり寝る前のひと時。
汗を垂らした日中よりも馬鹿話ができる
夜のほうが好きだったりもする。
その時の寝顔にそっくりだった。
収骨が終わりに差し掛かり、
涙があふれだしそうになったが、
耐えることにした。
式が終わり、駐車場へ向かおうと
小仏と歩き出す。
やはり言葉が出てこない。重苦しい雨の日。
ビニール傘を開く。すると背後から
誰かに呼びかけられた。泉の母親だった。
「森屋くん・・」
咄嗟に後ろを振り返り、
開いたばかりのビニール傘を閉じる。
そのあとに小仏にも挨拶を交わしていた。
確かに挨拶は会釈程度だったので
帰ろうとした自分に嫌気がさした。
「お久しぶりです」
そう言うと少し母親は笑っていた。
その後ろには父親もいる。
昔をよく思い出した。
「久しぶり。今日はどうもありがとう」
いえいえと口を開いた後に。
「この度はご愁傷さまです」
と口にした。
今にでも泣き出してしまいそうな母親は、
お願いがあると言った。
なんでしょうと尋ねると、
カメラを渡してきた。
「清正の」
母親が言い、えっと吐き出してしまう。
「これを持っていて欲しいの」
一瞬頭によぎるクエスチョンマーク。
やはり遺品ならば遺族のもとに
あることが一番であろう。
「貰えないですよ、お母さん」
その通りだ。咄嗟に出た回答はそれだった。
後ろの父親も口を開いた。
「どうか、受け取ってくれ」
こちらが断れないほどに
カメラを渡したかったのであろう。
「コボちゃんでもモリちゃんでもどうか」
説明不要だが
呼びやすいようなあだ名のことである。
それほど言われたら
受け取るしかないと思いながらも謙遜する。
「本当に、いいんですか?」
すると母親は、
「お願いします」
と真剣な表情を浮かべる。
後ろの父親も同様に。
「でも、どうして」
と疑問符を投げかける。小仏も頷いていた。
「あの子が大切にしていた思い出を
君たちが持っておいてほしいんだ」
と父親が言い、母親から
カメラケースを受け取った。
言い忘れたかのように母親が言う。
「渡部さんの所へ行けば
中身が見えるかもしれない」
と。
「こんなことしかできないけれど、
あの子を忘れないでね」
と告げる母親を見て、改めて
涙を浮かべそうになった。
雨脚はだんだんと弱くなった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます