File 2 : 横山薫 5
私には昔からの支援者がいる。
年と共に支援者の数も減ってしまったけどね。死んじゃったか、介護施設に入って身動きが取れないか。そんな感じで連絡が取れなくなった奴らばかりだよ。
でも、今も2人とは連絡が取れている。私から連絡を取った事が警察に知れても、びくともしない立場の2人だ。
中に入ってるデータがどんな物なのかはよく分からないけど、あの2人なら金に換えるなり、情報操作に使うなり、自分の損にならない様に使うだろう。
もし、しょうもない内容なら捨てればいいだけの事だから。
彼等は受け取った後も絶対に私の名前は表に出さない。正確には出せない。ギブ アンド テイクではなくて、あの2人は私に尽くすだけ。私が一方的にテイクする関係だったからね。
SDカードを渡すのは、お礼の気持ちだね。バカくさいけど、それでいいんじゃないかって思うぐらいには私も年を取ったんだと思う。
それに、あの人のためにも私が捕まるわけにはいかないのさ。
潮時…。
退場…。
全ての準備を整えた私は静かに待った。
美琴とテルくんが薬を3錠飲むのを。
若造2人はすぐに3錠飲んだことが分かった。断末魔の声を上げることもなく、あっさりと逝った。
私はゆっくりと2階に上がり、2人を見た。
(お楽しみの最中だったね、美琴。かわいそうに。愛情の薄いおばあちゃんで残念だったね。でもね、この私を殺ろうとしたなんて、万死に値するんだよ)
私は手袋をポケットから出して、口を使ってどうにか右手にはめた。それからテルくんのお守りからSDカードだけを取り出し、自分のポケットに入れた。
私は手を合わせることもなく、丸裸の2人をそのままにしておいた。
そして、2人を振り返る事もなく、ゆっくり、ゆっくりと階段を下に降りた。転ばないように、ゆっくりと…。今動けなくなるのだけは避けなければならないからね。
半身が動かないのは、本当に大変なんだよ。
私はリビングに戻り、紅茶を飲んで一息ついた。温かい湯気がシワだらけの顔に心地よくて、ゆっくりと紅茶を味わった。
それから私は封筒や便箋を取り出して作業を始めた。
封筒に支援者の1人の宛名を書き、SDカードと白紙の便箋を入れた。もちろん、裏には連絡用の偽名を書いた。
今も連絡が取れるその2人は、私達夫婦をずっと支援してくれた。今ではかなり難しいだろうが、偽の戸籍を入手し、パスポートを作り、資金の調達をしたのも彼らの仕事だった。私と夫の顔の整形を手配したのもあの2人。
本当に使える男達。若い頃は共に行動した2人だったけど、途中で裏から支援すると言い出してね。
当時は裏切りかと一悶着あったが、今となっては、彼等は正しかった。お陰で、私達夫婦は捕まる事なく、こうして穏やかに暮らすことができたんだ。子や孫を持ち、それなりに楽しい人生を送る事が出来たのも彼らのお陰だったとも言えるよね。
封筒に入れた白紙の便箋はお別れの合図。
彼等はホッとするに違いないね。長い間、自分達にぶら下がっていた過去の汚物が、綺麗さっぱりと無くなるのだから。
次の日、私は杖をつきすぐ近くの郵便局まで歩いて行った。確実に封書が送られるのを見ておきたかったから。
それから私は1週間待った。その間に私の支援者2人は全てを終えるだろう。彼等の保身のためにも急ぐはずだもの。
1週間過ぎた昨日、私はゆっくりとお風呂に入った。転ばないように、ゆっくりと…。
そして、私の体の上を通り過ぎた男達に想いを馳せた。殆どの男がこの世にはもういない。寂しいけれど。
あの2人も私に夢中になっていた。年下の彼らは私の言いなりになっていたから、とても素直でね。行為の最中の写真を何の躊躇いもなく撮らせてくれたよ。私に鞭打たれ、歓喜に涙するその写真は随分と役に立った。
1番使える男2人が最後まで私を支えてくれたんだものね。本当に幸せだった。
お風呂から出た私は、2人との思い出の写真を燃やして灰にしトイレに流した。跡形もなく消え去るまで、何度も流してから呟いたのさ。
(今までありがとう。
お礼に秘密は隠してあげたわ)
なんだか少しだけセンチメンタルになって涙が出た。
さあ、あとは私がこの世から退場するだけね。その為の薬は今も肌身離さず持っている。これがあると思うだけで安心してたから。
この薬の効果は、昔、あの人から聞いている。私が本当に愛した、ただ1人の男。
飲んでからしばらくは何も起きず、16時間経った頃からはただ眠っているようにしか見えない。でも、きっちり24時間後に確実に死が訪れる。苦しまず、穏やかに逝ける素晴らしい薬。
あの人は私にこれを手渡して『どうしようもなくなった時にはこれを飲め』って言ってくれたの。
私はこれをくれたあの人に感謝しながら、その薬を飲んだ。
それから粗相の無いように脚も紐で括った。うまく結べなかったが、解ける事はない。昔取った杵柄…というやつだろうね。
そして、後少しで16時間が経過するっていう時に、私は枕元に置いた電話で110番通報し、助けてとだけ言ったわ。
優秀な日本の警察は老婆の '助けて' をそのままにはしないからね。
期待通りに交番勤務の巡査がやってきた。玄関は開けておいたから事はするすると進んで、私を見つけた巡査はすぐさま各方面に連絡を取った。それから2階の死臭に気づき、巡査がそろりと2階に上がって大騒ぎになったところまでは確認した。
後がどうなったのかは、知らない。
もう意識がなくなってたからね。
ふふふ。
私が薬を飲んでからそろそろ24時間経つみたいだね。
終わりの時が来た。
もう一度だけ、あの人に会いたかった…
愛してるって言いたかった…
「…おい!」
「…お前…名前…誰…」
「おいっ!」
ずっとうるさい声が聞こえている。
私を揺さぶるな。そんなことしたって、目が覚めるはずないだろ?
あぁ、こいつはさっきの…久我山?
ふん、舐めるな。
お前なんぞ、私の相手ではない。
「おい!おい!起きろ。お前は誰だ!」
「くそっ!野沢さん、こいつを死なすな!」
…医者?…無駄だ
…諦め…なさい
…私はこれで…やっと…
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