第36話 自分に正直でいるということ

大人になると、「自分に正直でいる」ということが難しくなる。社会の中では、空気を読むことや、場に合わせて振る舞うことが求められる場面が多いからだ。だから、いつの間にか「本当の自分」を隠すことが当たり前になっていた。


たとえば、嫌なことがあっても「気にしていないふり」をする。何かに興味があっても「こんなの子供っぽいと思われるかな」と躊躇する。自分の本音を押し殺しながら過ごしているうちに、心にどこか空虚さを感じることが増えていった。


でも、あるとき気づいた。「自分に正直でいないと、心が窮屈になる」と。


そのきっかけは、何気ない友人との会話だった。私が「最近、趣味でこんなことを始めたんだ」と話すと、友人は笑顔で「それ、すごく面白そうじゃない!」と言ってくれた。


その一言を聞いたとき、私はハッとした。自分が好きなことややりたいことを話しただけで、こんなに気持ちが軽くなるのだと感じたからだ。


それ以来、私は少しずつ「自分に正直でいる」練習を始めた。好きなものを「好き」と言う。嫌なことがあったら、自分の中でその感情を否定せずに「嫌だった」と認める。


もちろん、すべてを正直にさらけ出すのは難しい。社会では時に、自分の気持ちを抑えることが必要な場面もある。それでも、自分の中で「本当の自分」を否定しないことが大切なのだと気づいた。


たとえば、好きな趣味に没頭する時間や、一人で静かに過ごす時間――そうした時間を大切にすることで、自分に正直でいられる瞬間が増えた。それが心の充電となり、また他人と向き合う力を与えてくれるようになった。


自分に正直でいるということは、単に「わがままになる」ことではない。それは、自分の感情や欲求を素直に受け入れ、その上でどう行動するかを考えることだと思う。


正直でいることには勇気がいる。でも、その勇気を出すことで、自分自身との信頼関係が生まれる。そして、その信頼があるからこそ、心が少しずつ楽になっていくのだと思う。


これからも、自分に正直でいられるような生き方を続けたい。そして、その中で見つける小さな喜びを大切にしていきたいと思う。


「正直でいることは難しいけれど、それが私たちを自由にする鍵なのかもしれない」――そんな思いを胸に、今日も一歩を踏み出していこう。

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