第29話 過去の自分を抱きしめてみる
大人になった今でも、ふとした瞬間に思い出す過去の出来事がある。それは嬉しい記憶もあれば、苦しい記憶もある。そして、後者の記憶ほど、鮮明に心の奥に残っていることが多い。
失敗したこと、周囲と馴染めなかったこと、孤独を感じたこと。子供の頃の私は、そうした経験をどう消化していいかわからず、自分を責めてばかりいた。
「どうして私は上手くできないんだろう?」
「みんなと同じように振る舞えない自分が悪いんだ」
そんなふうに考えながら、過去の自分はいつもどこか窮屈で、居場所を探してさまよっていた気がする。
大人になった今、その頃の記憶を冷静に振り返ることができるようになったけれど、過去の自分が感じていた痛みや孤独は、まだ完全には消えていない。それは心の奥深くに根を張り、時折自分を不安にさせる原因になっている。
でも、最近ふと思った。「過去の自分に、もう少し優しくしてあげてもいいんじゃないか」と。
子供の頃の自分は、不器用だったけれど、一生懸命だった。周囲に馴染めないなりに、居場所を見つけようと努力していたし、失敗しながらも何とか前を向こうとしていた。その姿は決して「ダメな自分」ではなく、むしろ「懸命に生きようとしていた自分」なのだと思えるようになった。
だから、私は過去の自分に「ありがとう」と伝えたい。どんなに辛い日々でも諦めずに生きてくれたことが、今の私を作ってくれたのだから。
そして、今でも時々思い出す過去の苦い記憶を抱きしめてみようと思う。それは、単に忘れたいものではなく、自分を形作る大切な一部なのだから。過去を否定するのではなく、「よく頑張ったね」とその時の自分を労うことで、少しずつ心が軽くなるのを感じる。
過去の自分を抱きしめるということは、今の自分を受け入れることにつながる。そしてそれは、未来に向かって進むための大切なステップなのだと思う。
もし、過去の自分を責めてしまいそうになったら、こう言ってあげてほしい。
「あの頃の自分も、ちゃんと頑張っていたんだよ」と。
私たちは過去を変えることはできないけれど、過去の自分をどう受け止めるかは自分次第だ。これからも、過去の自分を抱きしめながら、前に進んでいきたいと思う。
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