第8話 些細なことが引き金になる日
些細なこと――普通なら気にも留めないようなことが、私には時々、大きな感情の波を引き起こす。
たとえば、SNSで友人が投稿に「いいね」を押さなかった。それだけで、「何か悪いことをしてしまったのかな」と不安になる。街中で誰かが小声で笑っているのを耳にすると、「自分のことを笑っているのでは」と考えてしまう。こんなふうに、小さな出来事がきっかけで、心の中に不安や疑念が広がっていくのだ。
「気にしすぎだよ」と言われることも多い。それは自分でもわかっている。頭では、「こんなことで気を病むのは無意味だ」と考えているのに、心はその理屈を受け入れてくれない。感情は理性では抑えられないものなのだと、痛感する瞬間だ。
些細なことが引き金になるとき、それはたいてい、自分の心が疲れているときだ。元気なときには流せる言葉や出来事が、心が弱っているときには鋭い棘となって突き刺さる。その棘を自分で抜けなくなり、気づけば痛みに意識を集中させてしまう。
でも、最近気づいたのは、「些細なこと」をきっかけに心が揺れることには理由があるということだ。それは、私の中に何か大切な価値観や不安が潜んでいるからではないだろうか。
たとえば、友人の「いいね」が気になるのは、自分がその人との関係を大切に思っているからだし、誰かの笑い声が怖いのは、過去に他人から笑われて傷ついた経験があるからだ。つまり、引き金になった出来事そのものよりも、それをきっかけに浮かび上がる自分の内面に目を向けることが大切なのかもしれない。
だから私は、些細なことが引き金になったときには、自分にこう問いかけるようにしている。
「今、自分は何を感じているの?」
「どうしてそのことが気になったの?」
すると、不安の正体が少しずつ見えてくることがある。そして、その感情を否定するのではなく、「そう感じるのは自然なことだよ」と自分を受け入れると、不思議と心が少し軽くなる。
些細なことが引き金になる日。それは私にとって、心が何かを伝えようとしているサインなのかもしれない。だから、そのサインを見逃さず、丁寧に自分と向き合うことを忘れないようにしたい。
誰もが抱える些細な不安。それが私にとって、生きづらさと向き合うための大切なヒントになっている。
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