第4話 泣く理由がなくても涙が出る
涙が流れるとき、それは必ずしも悲しみのせいではない。嬉しいとき、悔しいとき、ただなんとなく心が揺れたとき――私は涙を止められなくなることがある。
ある日、街中で小さな男の子が転んで泣いているのを見かけた。その子を母親が抱き上げ、優しく頭を撫でながら「大丈夫だよ」と言っている。その光景を見た瞬間、私は自分の目からぽろぽろと涙がこぼれるのを感じた。
もちろん、私自身に何か悲しいことがあったわけではない。その親子の姿を見て、ただ心が動いただけだ。けれど、それを人に話すと、「そんなことで泣くなんて、感受性が強すぎる」と苦笑されることが多い。
子供の頃から、私はよく泣く子だった。友達にからかわれると泣き、先生に叱られると泣き、嬉しいことがあるとまた泣いた。いつも泣いてばかりいるから、周りからは「すぐ泣くのは弱い証拠」と思われていたのかもしれない。
でも、泣くことが本当に「弱い」ことなのだろうか?
大人になった今でも、私は涙を我慢するのが苦手だ。映画のワンシーンで泣くこともあるし、友達からの温かい言葉に泣くこともある。そして、泣いたあとは少し心が軽くなることもある。
泣く理由を他人に説明できないことも多いけれど、それでも涙が出るのは、私の心が何かを伝えようとしているからだと思う。悲しいだけじゃない。涙は、私に「この瞬間の感情を大切にしてほしい」と教えてくれているのかもしれない。
大人になると、「泣くことは恥ずかしい」「感情的になるな」と言われることが多い。私もそれを意識して、涙を隠そうとした時期があった。でも、それはとても苦しいことだった。涙を堪えるたびに、心の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚がして、自分の感情を否定しているように思えた。
だから今は、泣きたいときには泣くようにしている。たとえ理由が曖昧でも、涙が出るということは、それだけ心が動いている証拠なのだから。
泣く理由がなくても涙が出る――それはきっと、私が「子供の心」をまだ持っているからだろう。そして、その子供らしさを、これからも大事にしていきたいと思う。
涙は、私の心が素直でいるための大切な手段なのだから。
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