第2話 心が叫ぶ瞬間

「ああ、まただ」と思うことがある。何も言葉にできないけれど、胸の奥で何かが叫び声を上げているような感覚。誰かに伝えたいけれど、うまく言葉にできなくて、そのまま心の中に押し込めてしまう。


たとえば、スーパーのレジで順番を抜かされたとき。たとえば、相手の小さな言葉に棘を感じたとき。そんな些細な出来事が、私の中では突然の大波となって心をかき乱す。


大人なら笑って流せるのかもしれない。「気にしすぎだよ」と言われることもある。でも、私にとってそれは「気にするかしないか」というレベルの話ではない。それは、胸の中で叫ぶような感情が湧き上がること――それ自体を否定するような言葉に聞こえる。


その叫びは、理屈では説明できない。怒りや悲しみ、理不尽さへの抵抗、あるいはただの不安――そのすべてが混ざり合って、私を一瞬で覆い尽くす。そうなると、頭では「気にしちゃだめ」と思っても、心はそれを許さない。


子供の頃からこうだった。私は感情を隠すのが下手で、いつもすぐに顔に出た。「何かあったの?」と心配されることもあれば、「そんなことで泣かないで」と言われることもあった。でも、大人になるにつれて、そうした感情を表に出すこと自体が「良くない」と教えられてきた気がする。


だから私は、感情を抑え込む方法を覚えた。でもその代わりに、心の中で叫ぶ声は大きくなっていった。表には出さないけれど、押し込められた感情たちが私の中で暴れる。それが、今の私の生きづらさの一つの原因になっている。


ふと思う。「大人らしさ」とは、感情を抑え込むことなのだろうか。もしそうなら、私は大人になることを拒みたい。感情を表現することは悪いことではないはずだ。それが怒りでも悲しみでも、誰かに伝えられなくても、自分自身に正直でいることは何よりも大切なことだと思う。


次に心が叫ぶとき、私はその声に耳を傾けてみたい。そして、自分が何を感じているのか、どうしてそんなに心が揺れているのかを、丁寧に拾い上げたい。それが、自分を理解する第一歩なのかもしれない。


心が叫ぶ瞬間に目をそらさず、自分自身と向き合っていきたい。そうすることで、この生きづらさが少しでも軽くなるかもしれないから。

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