第50話 出自

「え? 師匠がなんで……?」


 知っているんだ?

 今まで会ったことも、生きていた国も違うはずなのに。

 俺は立て続けに話される重要な情報に混乱する。


「リオルの親が誰か、までは勿論分からない。だが、少しだけ分かることがある。お前はおそらく龍人族りゅうじんぞくの血を引いている」


「え? 蜥蜴族とかげぞくなんじゃ……?」


「お前の鱗は龍鱗ドラゴンスケイルだった。龍人族は獣人達によって治められている我がロムリア帝国では特別な種族なんだよ。帝国の皇帝は代々龍人族が継ぎ、要職も多くが龍人族によって占められている。その圧倒的な強さでな」


 突然告げられたルーツ。

 俺は龍人族の血が入っている?

 なら、俺は帝国の人間?

 なぜ俺はエルドール王国に?


「じゃあ……俺は師匠と同じ帝国出身ってことですか?」


「可能性は高い。その深紅の鱗は火龍の龍人族だが、その血を引くものはとても少ない。多くが王族だ。今の王子は火龍の龍人族なんだが、私がここに飛ばされる際、この愛刀や装備一式を持ってこれたのは王子のお陰なんだ。『今までの功績を評価し、装備一式は持つことくらい許してやれ』と反対勢力に言ってもらえてな。その礼に、その血を引いてそうなお前の面倒を見ようと思った」


 間接的に俺は同族に救われたということだろうか?


「だが……私はお前の存在すら、知らなかった。曲がりなりにも、元帝国騎士団団長である私がだ。国も、誰もお前のことを知らない、もしくは隠ぺいしている可能性がある」


「どういうこと、ですか?」


 俺は全く状況が分からなかった。

 俺がロムリア帝国の王族の血を継いでいるとして、なぜここに居るのか?

 けど、この話を聞いて少しだけ思ったことがある。

 俺は……邪魔だからここに捨てられたんじゃないのかと。


 要らないから……ここなら処分できるから。

 だから、わざわざこんな子供をこの島に送ったのだ。

 気付けば、俺の全身が震えていた。

 誰からも愛されずに、ここで死ぬことだけを望まれていたのでは?


 呼吸が荒い。

 吐きそうだ。

 知りたくなかった。


 何も知らずに死んだ方が……。

 そんな時、俺は突然師匠から抱き締められる。


「落ち着け、リオル。そんな怯えるな。まだ、何も分かってはいない」


 師匠が優しい声色で言った。

 けど、そんなことはない。子供の俺でも分かる。

 こんなところに子供を飛ばす理由なんて一つしかない。


「分かるよ! 俺が邪魔だから……俺を殺したいからこの島に飛ばしたんだ! こんな島で、子供が一人で生きていくなんて無理なことくらい誰だって分かる! 俺が要らない子だから……親は俺が死ぬのを望んでいる! 誰も俺を愛しては居なかったんだ!」


 俺は思わず叫ぶ。

 気持ちを抑えられず、目からは涙が止まらない。


「私は、確かにお前を愛しているよ、リオル」


 師匠はいつもの厳しい口調でなく、優しい口調で言った。


「王国でどのような生活をしていたか、までは私は知らない。だが、私はお前を実の子のように思っている。それでは駄目か?」


 師匠は悲しそうに尋ねてきた。

 その目は真剣で、本気で言っていることが伝わってくる。


 ずるい。

 そんな言い方されたら、何も言えないじゃないか。


「駄目じゃ……ないですけど。師匠……俺はなんでここに居るんですか? なぜこんな地獄のような場所に捨てられたのですか? 俺の本当の父は、母は誰なんですか?」


「その答えは、残念ながら私は答えてあげられないんだ。だからこそ、お前はこの島を出ないといけない。この一年、私はこの島のあらゆる所を探索した。だが、未だに霊具は見つかっていない。まだ探していない場所は一つ、島の中央の遺跡。風龍の住処だ」


 こんな所に捨てる事情なんて、どんな事情でも許せるとは思えない。

 けど、どちらにしても俺は知らないといけない。俺に何があったのかを。


「分かりやすくていいですね。けど、出る時は皆一緒です。弱体化の呪いは解くことはできるんですよね?」


「大陸に戻れば解ける者も居るだろうが……間に合うまい。私のことは気にしなくていい」


 諦めたような口調で微笑みながら、俺の頭を撫でる。

 だけど、俺は強い決意を固める。

 自分の大切な時間を俺のために捧げてくれた、誰よりも優しいこの人を、必ず助けると。

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