第47話 一年後

「よっと。今日の獲物はどこかな~?」


 俺は木の枝から枝へ跳びながら移動していた。

 師匠がフェンリルと戦って、もう一年が過ぎた。俺はフェンリルの毛皮で作ったマントを纏っている。

 この一年は地獄のような訓練の日々だった。


 けど、お陰で随分ましになったと思う。

 森を駆けていると、見覚えのある角を見つける。


「アルテオックスだ!」


 師匠が昔倒していた将級の霊獣である。

 巨大なジャコウウシのような姿をしており、立派な二本の角の片方には鹿の霊獣が既に犠牲になっていた。

 アルテオックスはこちらに気付くと、その頭を振り、地面に鹿を叩きつける。

 すると、木々をなぎ倒しながらこちらに突進してきた。


 大木もものともせずに一心に進むその姿は、どんな敵でも吹き飛ばす奴の自信を感じ取れる。

 俺は地面に降り立つと、両腕をほぐすように軽く背伸びをする。


 この一年間、剣術、調薬など様々なことを教わった。

 調薬に関しては中級ポーションまで作れるようになった。

 だけど、一番のメインはやはり霊術である。


 俺は尻尾を顕現させると、突進に合わせて軽く跳躍する。

 そして体を回転させて勢いをつける。

 尻尾はあくまで霊気によって生み出したもの。


 すなわち、俺の霊術の練度によってその姿は変わる。

 回転に合わせて、俺は一気に尻尾の長さを、太さを変える。

 アルテオックスにも負けない強靭さを。

 俺は突進に合わせて、渾身の叩きつけをその頭部に叩き込んだ。

 突進を躱すような上からの一撃が、アルテオックスを襲う。


 凄まじい轟音と共に、アルテオックスは地面にめり込んだ。

 その頭部は割れ、勝負がついたことを示していた。


「今日の昼食は君で決まりだね」


 俺は慣れた手つきでアルテオックスを捌き、霊胞を取り出す。


「いただきます」


 俺は霊胞を呑みこむ。

 熱い感覚。

 霊気があがり、体が強靭になるこの感覚。

 尻尾もより固く、強くなったことが分かる。


「将級の霊胞はやっぱりいいね」


 この一年で長級の霊胞では成長を感じられなくなってきていたのだ。

 ようやく将級ともまともに戦えるようになってきた。

 大きな進歩である。


 俺は獲った肉を葉っぱに包んで、住処に戻った。


「ただいま戻りました~」


「ガウー!」


 肉の匂いに誘われて、ネロが飛んできた。

 この一年で最も体格的に成長したのは間違いなくネロだろう。

 全長は二ユードを超えて、もう見た目は大型の虎である。豹だけど。

 俺が修行している間、ネロも狩りに行っているのかたまに獲物を持って帰って来る。


「アルテオックスか。もう将級であっても下の霊獣であれば倒せるようになったな」


「はい!」


「大陸では将級の中でも三段階に分けられる。下位、中位、上位だ。まだ将級中位以上とは戦うなよ」


「分かってますよ~」


 師匠は最近心配性である。

 最近は俺が狩りをすることも増えた。

 なんだかんだ言って、俺ばかりこき使うのだ。


 まあこれも修行なのだろうけど。

 俺はアルテオックスの肉を焼く。

 香ばしい匂いが周囲に香る。


 アルテオックスの肉はとても美味しい。

 軽く塩を振ってかぶりつく。


「美味い……!」


「がうーー!」


 横ではネロが凄まじい速度で肉を食べている。

 俺とともに過ごしたからか、ネロも肉を焼いて食べるようになった。

 グルメだ。


 だが、アルテオックスのいい匂いは招かざる客を呼ぶ時がたまにある。

 木をかき分けてその姿を現したのは巨大な鰐の霊獣・リーグルクロコダイル。

 全長七ユードを超える将級の巨大鰐である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る