第41話 厄災級との遭遇
初めて師匠の肩から、血が舞った。
前回は剣で斬っても、傷一つつかなかったが、今度は違う。
初めて師匠にまともな一撃を浴びせた。
斬ったのは俺なのに、師匠が痛くないか心配で顔を見てしまう。
だが、師匠は笑っていた。
綺麗で、見とれるような微笑だった。
「ふふ。嬉しいよ」
「え?」
次の瞬間、俺は師匠の真っ向斬りを受ける。
重……すぎる!
なんとかその一撃を刀で受けたが、止めきることはできず、地面に叩きつけられた。
やはり師匠に勝つことはできないのだ。
「まさか一撃を受けるとは思わなかった。さっきのは良かったぞ」
師匠は斬られたにも関わらず上機嫌だ。
「ありがとうございます。殆ど効いていませんでしたが」
「私とリオルじゃ、霊気量が違いすぎる。もっと霊気量を増やすんだな」
「はい」
「だが、成長したな。リオル」
そう言って師匠は俺の頭を撫でる。
嬉しいけど、どこか恥ずかしい。
「すぐに師匠より強くなりますから!」
「期待しよう」
そう言って笑っていた師匠が、突然鋭い眼光に変わる。
「リオル、下がっていろ」
師匠は腰に差していた剣を抜くと、前に出る。
何か来るのか……?
森から突然、巨大な狼が飛び出してきた。
初雪のような美しい毛並を靡かせ、その目からは確かな知性を感じさせる。
全長十ユードを超える巨体に、息がつまるような圧力。
明らかに生物の格が違う。
厄災級だ。
歩く災害が突然やって来た。
俺はミラさんが風龍に襲われた時を思い出した。
いつも幸せは突然壊される。
師匠までやられてしまったら……。
足が震える。
師匠だけに戦わせる訳にはいかない。
「師匠、やりますか?」
「馬鹿。今のお前じゃ援護にもならん。すぐに住処に戻れ。退くことは悪いことではない。いつか奴を倒せるくらい強くなるんだろう?」
実力がついたからこそ分かる。
自分では師匠の足をひっぱることしかできないと。
だけど……師匠まで失ったら。
「お願いですから、どうか……生きて帰って来て下さい」
俺はそう言うことしかできなかった。
「当たり前だ。そんな心配そうな顔をするな。私は強い」
師匠は笑う。
「久しぶりだな。厄災級の霊獣とやるのは。しかもその相手が、伝説の霊獣・フェンリルとはな。完全獣化(かんぜんじゅうか)」
その言葉と共に、師匠の全身が獣化していく。
全身は優に二ユードを超えるほど大きく、そして金色の毛並を持つ狼へ。
鋭い爪に、立派な牙。
二本の脚で立っているが、まさしく金狼だった。
「御武運を」
俺はそう言って、逃げる。
いつまでたっても弱い自分を嫌悪しながら。
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