第40話

 それからは目まぐるしい毎日だった。

 剣術、霊術、調薬、実践。

 死にかけながら、必死で学ぶ日々。


 本日の午前中は剣術の訓練だ。

 ようやく剣術の型が体に染みついて来た。


「では、私の剣を止めてみろ」


 今日は剣術での実践である。

 日に日に師匠の指導は厳しくなっていているのを感じる。

 師匠の剣が雨のように降り注ぐ。


 それをなんとか受け流す。

 だが、隙がない。

 隙を探すんだ。

 百を超える一撃を受けた後、一瞬だけ師匠の体幹がずれる。


 ここだ!

 俺は横薙ぎの一撃を放つ。

 だが、師匠はそれを予見していたのか、あっさりと躱す。

 釣られた!

 さっき見つけた隙は、わざと作られたものだったのだ。


「甘い」


 師匠の蹴りが、俺の腹部に刺さる。

 骨が鈍い音を立てながら、軋む。


「ぐっ……!」


 俺は数ユード飛ばされ、背後の木に激突した。


「こんなバレバレの隙に引っかかるな。今のが実践なら、死んでいたぞ?」


 師匠が鋭い眼光でこちらを睨む。


「す、すみません」


 言い訳のしようもない。


「そんな実力で、風龍に勝てるのか? 風龍は私よりはるかに強い。また大切な者を失いたいのか?」


「もう失いません!」


 俺は自分が情けなかった。

 あの風龍を倒して……ミラさんの仇を!

 俺はあの時の怒りが思い出し、剣を握る手に力を込める。


「うわああああああああああ!」


 俺は師匠に突っ込むと、力まかせに剣を振るう。

 渾身の力を込めた一撃を、やはり師匠はあっさりと受け止める。

 一度の攻撃で無理なら連撃だ。

 連続で斬りかかるも次は受け流され、次はボディブローを決められた。


「うう……」


「馬鹿者! 怒りに支配されるな! 怒りは飼いならして、利用するものだ! どんな辛いことがあっても、刃をぶらすな。全て刃に乗せろ」


 怒りに支配されるな、か。

 怒りを飼いならして、利用する。


 なんて難しいことだろう。

 けど、ただがむしゃらに振るうだけじゃ駄目なんだ。

 風龍への怒りも、全て剣に。

 俺は大きく深呼吸すると、再度剣を握る。


 剣は軽く握る。

 剣線は喉元。

 霊気を淀みなく、流す。

 落ち着いた。


 俺は剣を構えたまま、速度を上げながら距離を詰める。

 そして、お互いの間合いに入った瞬間一気に飛び掛かる。


「甘い!」


 師匠が俺より速い横薙ぎを放つ。

 知っている。

 俺より師匠の方が速いことは。

 だが、俺は突如空中で止まる。


「なっ!?」


 それにより、カウンターの要領で剣を振るった師匠の横薙ぎが空を斬る。

 俺は尻尾を地面に突き立て、自らの体を空中で止めたのだ。


 小細工。


 だが、それでもこの隙は、俺が作った。

 俺の渾身の振り下ろしは、師匠の肩を斬った。

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