第39話 成長
翌日。
俺達は朝から、霊獣の群れを探していた。
「私は決して手を出さない。勝てないなら逃げろ。助けてもらえるとは思わないことだ」
「はい」
森を歩くこと一時間。
ようやく俺はコボルトの群れを見つけた。
前回の二十を優に超える四十近い数の群れだ。
中央には他のコボルトよりも一際大きい個体が見える。
この数を見ても落ち着いている自分が居た。
俺は尻尾と鱗を生み出す。
「ネロはここで待っててね?」
「ガウー……」
心配そうにこちらを見つめるネロの頭を撫でる。
「行ってきます」
俺はネロと師匠にそう言うと、木に登って群れに向かって距離を詰める。
長から狙うか?
だが、時間がかかると、袋叩きに遭うな。
周囲から削るか。
俺は音を立てずに、コボルトの群れの近くの木まで移動すると一気に飛び掛かる。
同時に尻尾をコボルトの首に巻くとそのまま地面に叩きつける。
骨が折れる鈍い音がした。
まずは一匹。
周囲の二匹が俺に気付く。
俺は剣に霊気を纏わせると、右に居る個体の首を貫く。
二匹目。
「ガウッ……!」
もう一匹が剣を振るってきた。
その一撃を剣で受け止めると、すぐさま尻尾で足を払う。
バランスを崩したコボルトの頭部を剣で叩き斬る。
三体目。
だが、これで気付かれたな。
「ガウウウウウ!」
遠くの個体が、侵入者がやってきたことを告げる。
混乱している今がチャンスだな。
俺は近くの集団に斬りこんだ。
一匹のコボルトが槍で突きを放つ。
その槍は俺の足に当たるも、キンッと澄んだ音を出して弾かれる。
よしっ、いける。
こいつら程度の攻撃じゃ俺の鱗は貫けない。
驚いているコボルトの足に尻尾を巻くと、そのまま力任せに振り回す。
そして、そのまま群れに叩きつけた。
「一気に攻める」
俺は周囲のコボルトを斬り裂いた。
激しい攻防が始まった。
だが、今までと一番違うのはその防御力だ。
尻尾の強度からも知っていたが、皮膚を獣化することで安定感が跳ね上がった。
衝撃は勿論受けるが、全身を鎧で包んだような今では、致命傷を喰らうことが大きく減る。
そのおかげで少しは無理な戦い方ができる。
俺は敵の中央に突っ込むと、尻尾で敵の首めがけて突きを放つ。
鈍い音と共に動きが止まる。
その瞬間に、剣で首を切り裂いた。
やはり剣を霊気で覆うと、素手よりの威力が高い。
今まで尻尾以外に有効打がなかったが、これだと随分戦いやすい。
「ガウウウウウウウウウウウウウウアアア!」
一回り大きなコボルトが咆哮と共に、大きな斧での一撃を放った。
剣で受け止めたが、大きく吹き飛ばされた。
「群れの長か。やっぱり他より随分力が違うな」
まともに受けると、力負けするのが今の一合だけで感じ取れた。
全長は三ヤード以上あり、他の個体より明らかに大きい。
鍛え上げられた肉体は簡易的な防具に包まれており、俺と変わらないサイズの斧を持っている。
群れの長は大きな一歩で距離を詰めると、その斧を振り下ろす。
俺は懐に潜り込みかわすと、ジャンプして相手の左脇腹を狙って尻尾を振るう。
その一撃は見事に叩きこまれ、その巨体を軋ませ、揺らす。
「ガウッ!」
だが、致命傷には程遠く、すぐさま反撃に出てきた。
周囲からも部下のコボルトが襲ってくる。
俺はそのうちの一匹を尻尾で掴むと、長にぶつける。
長はそれを鬱陶しそうに左手で弾き飛ばす。
「愛がないね」
まともに殴り合うのは馬鹿だな。邪魔も入るし。
俺は、今度はこちらから距離を詰める。
群れの長は下から振り上げるような一撃を放つ。
それを横っ跳びで躱すと、そのまま群れの長の股を潜り抜ける。
「ガウッ?」
そしてそのまま俺は群れの長の背中に張り付く。
背中を取られた群れの長が暴れはじめた。
だけど、背後に居る小柄な俺をすぐに捕らえることはできない。
すぐさま群れの長の頭まで登ると、俺は思い切りその首を尻尾で締める。
すぐに群れの長の首が鈍い音を立てる。
危険を感じた群れの長が斧を捨て両手で俺を捕まえる。
凄まじい力で俺を剥そうと必死だ。
だが、全身が鱗で包まれた俺の体は強度が上がっており、群れの長の力をもってしても簡単にやられることはない。
「その手を緩めろ!」
俺は霊気を込めた剣を、その首に突き刺した。
それにより、一瞬手の力が緩む。
その隙に一気に俺は尻尾で締め上げる。
骨が砕けた音がした。
力を失った群れの長はそのまま倒れ込む。
仕留めた!
確実に強くなっている。
霊気の扱い方、そして皮膚獣化による安定感が余裕を生んでいる。
群れの長を狩られて、他のコボルトは混乱しているのが見て分かった。
「後は、余裕そうだな」
予想通り、大して苦戦することなく全てを狩り終えた。
全滅させた後、俺は群れの長の霊胞を取りだし、喰らう。
全身が熱くなる。
ああ、この感覚。
全身が、霊気が強化させるこの感覚。
俺はまだまだ強くなれる。
「お疲れ。成長は感じられたか?」
「はい。皮膚獣化の習得を急いだ理由が分かりました」
「だろう? この島だと、怪我をしないことが普通よりも大事になる」
「頭に入れておきます」
「ガウーーーー!」
ネロが心配そうにこっちにやって来ると、俺の顔を舐め始める。
「くすぐったいよ、ネロ」
どうやら心配をかけていたらしい。
ネロはどうやら言葉を理解している節があり、言えばある程度は分かってくれる。
いつかはミラさんのように、念話が使えるようになるのだろうか?
そんなことを思いながら、俺はネロに顔をべたべたにされていた。
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