第31話 過去
「私はロムリア帝国で騎士団長をしていた。ロムリア帝国は獣人種が殆どの国だ。若くして騎士団長まで上がったのもあって、他の団長とは折り合いが悪くてな。他の団長と部下に罪をでっち上げられてここに島流しにあってしまったんだ」
クロエはぽつぽつと過去を語り始めた。
リオルはクロエが騎士団長という職位に就いていたことをすんなりと信じた。
あんなに強い者が、平の兵士だとは思えなかったからだ。
「そんな……酷すぎます! 部下が……裏切るなんて」
リオルはその事実を聞き、憤る。
子供でもそれが、あまりにも辛いことだと分かった。
「団長の座が欲しかったのだろう。奴は今、私の席に座っている。罪人になるかは罪を犯したかどうかで決まるとは限らない。上が罪人と決めたら、それはもう罪人になってしまうということを私は初めて知ったよ。そして国宝の霊具でここに無理やり飛ばされたんだ。だが、それから分かることもある。国宝の霊具とはいえ、こんな長距離を自由に飛ばせる訳がない。おそらくその霊具の対となる霊具がこの島のどこかにあるはず。それを見つければ元の大陸に戻ることも可能なはずだ」
(クロエさんも被害者だったんだ……)
リオルはその事実に親近感が湧いた。
クロエは壺のような霊具に無理やり触れさされ、触れると同時にこの島にテレポートしたようだ。
「その霊具を探せばいい訳ですね! 国に戻ったら、裏切った奴等をぶん殴ってやりましょう!」
「そうだな。次会ったら、思いっきりぶん殴ってやる」
「帰る理由ができましたね」
「ああ」
二人はそう言いながら、笑いあった。
◇◇◇
再び夜が明けた。
今日からまた新しい修行が始まる。
「師匠、今日は何をするんですか?」
「今日からは本格的に現主の訓練に入ろうと思う。より実践的と言えるだろう。私の腕を見ろ」
そう言って師匠は腕を出す。
すると、突然その腕が金色の毛で覆われる。
「えっ⁉」
「私は金狼族。金の毛を持つ狼の末裔だ。そしてこれは皮膚獣化。体の表面を獣化する。これは、身体能力は勿論のこと、防御性を上げるためには必須といえる技だ」
「なるほど」
表面を鱗で覆えば、それは俺も考えたことがある。
けど、未だに尻尾以外はできたことがない。
「基本は尻尾を生み出すのと同じだ。尻尾を生み出すように、腕に鱗を生み出すようイメージしろ。自分の体を守るのは鱗だと。まずは一枚でいいから腕に鱗を纏え。爬虫類系の獣人はそれができるかどうかで生存率が跳ね上がる」
「はい!」
腕にびっしりと鱗が出るように思い浮かべる。
俺が念じていると、鱗の代わりに尻尾が生えた。
違う、そうじゃない。
俺は尻尾から鱗を一枚剥す。
「いてっ」
赤い鱗。
剥した鱗を自分の腕に当てると、それを増やすようイメージする。
いくら考えど、鱗が体から生えることはない。
本当にできるのだろうか。
体中が鱗で覆われる姿をいまいち想像できないからかもしれない。
自分が獣人種であることも最近知ったくらいなのだから。
その後一日ずっと、鱗を生み出すようにイメージしたが鱗が腕から生えることはなかった。
「師匠、なにかコツはないんでしょうか? まったく鱗を生み出せる気配がありません」
その夜、夕食後にさりげなく師匠に尋ねる。
「そうだな……。感覚的なものにはなるが、通常の霊気で体を覆うイメージだと難しいだろう。皮膚の上を霊気で覆うのではなく、体の中に留めた霊気を体の外に出す際に、霊気を鱗に変化させるイメージだ」
霊気で体を覆うイメージだったよ。
内側から、外に出す際に鱗に変化させる。
やってみたが、どうしても鱗に変化しない。
「う~ん……難しいです」
「あくまで私のイメージだからな。人によっても獣化の感覚は違う。種族によっても違うから自分なりのやり方を学ぶしかないな。だが、皮膚獣化は何年もかかる者も多い高難易度の技術。人によってはできないまま生涯を終える者が居るくらいのな。すぐにできるとは思わないことだ。焦るな」
「……分かりました」
今までの訓練には全て期限があった。
だが、今回の訓練には期限がない。
それはもしかしたら、今までよりはるかに時間がかかるからなのかもしれない。
そう感じ始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます