第30話 墓参り

 翌日。リオルはクロエに出かける旨を伝え、ネロと共に住処を発った。


「こんな島で行くところなどないだろう? いったいどこに出かけたんだ?」


 クロエは首を傾げる。


「辺りは危険だというのに……一応見張っておくか」


 クロエはそう言ってリオルの後を追った。

 リオルはしばらく歩いた後、森の中で花を摘み始めた。

 その行動にますますクロエは混乱する。


「花? 理由が全く分からんな」


 リオルは花を摘み終わると、花冠を作り始めた。


「できた。ネロ、行こうか」


 そう言ってリオルが向かった先はミラを埋めた場所だった。

 周囲は激闘の跡で草木一本生えていない。

 リオルがミラを埋めた部分が、少しだけ霊獣に荒らされていた。


「はあ……」


 リオルはため息を吐くと、再び丁寧に埋めていく。

 荒らされた部分を再び埋め直し、簡易的に十字にした木を立てて、その墓となる木に花冠をかけた。


「ミラさん、簡易的なお墓でごめんね。ミラさんの好きな花飾りをかけておくから」


 リオルは膝をつき、祈るようなポーズを取った。

 ネロも口に咥えていた一輪の花を、墓前に添えた。


「ガウ……」


 その声はどこか悲しそうだった。


「枯れるまで大事にしてくれてありがとう。最後まで守ってくれてありがとう。墓参りに来るのが遅れてごめんなさい。大好きでした」


 リオルがミラにそう告げるのを、クロエはただ遠くから見つめている。


「仇は必ず取ります。最近は新しい師匠ができました。冷たく見えるけど、本当は優しい人だと思います。冷たいことは言うんですけど、何かあったらすぐに助けに来てくれるんです。本人は秘密にしてるけど。野菜も近くにないのに……」


「気付いていたのか!?」


 クロエはリオルの言葉を聞いて、頭を掻いた。

 この島に野菜は少ない。

 肉以外でも栄養を採らせようとしたクロエが遠くまで行って採って来たものであった。


「変なこと言わなきゃ良かったよ」


 クロエはそう呟くと、その場を去った。

 死者との再会に、覗き見は無粋だと感じたからだ。




 その夜。


「今日はお休みありがとうございました。明日から頑張ります!」


「それはいいことだ。明日以降も手加減はしない。付いて来れなければ、死ぬだけだ」


「はい!」


 クロエの脅しにも笑顔で答えるリオル。


(脅しにもそんな反応されると調子が狂うな)


 クロエはそんなリオルに困った顔を浮かべた。


「リオルは私を怖がらないんだな?」


 そして、つい聞いてしまった。


「え? 全然怖くないですよ?」


 リオルは何を言っているんだろうと、言わんばかりの顔だ。


「騎士時代は子供には怖がられていてな。顔が怖いらしく、全く近寄られることがなかった」


 クロエは苦い顔で前髪を触る。


「師匠が、本当は優しいことを知っていますから。それにここの霊獣に比べたら師匠なんて全く怖くないですよ」


 リオルはそう言って笑う。


「霊獣といっしょにするんじゃない! 私が優しいだって!? これからはもっと厳しくしないといけないようだな」


「ええ、そんな! 聞かれたから答えただけなのに!」


「ふふ」


 焦った顔を浮かべるリオルに、クロエが笑う。

 それはクロエが初めて浮かべた微笑だった。

 綺麗で、それを見たリオルは少しだけ見惚れてしまう。


「どうした? やっぱり私の顔は怖いだろうか?」


 少し顔が固くなったリオルに、クロエが心配そうな顔を浮かべる。


「ち、違います! そうじゃありません! わ、笑っている所を……初めて見たので」


 見惚れたとは言えなかったが。


「……そうだな。笑ったのは久しぶりだ。久しぶりに笑ったのがこんな地獄のような島とは、なんとも皮肉な話だ」


 クロエは笑った自分に少しだけ驚いたようだった。


「そう言えば、まだリオルにはなぜ私がここに来たのは話していなかったな。少し聞いてくれるか?」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る