第19話 島の中心で怒りを叫んだ獣
突如、ミラさんの影が解除され俺達は突然放り出された。
「ぐっ!」
「がうっ!」
俺は立ち上がると、影が解除された理由を考える。
ミラさんが負け……いや、そんなことはない。
きっと霊気を使いすぎたんだ。
すぐにあの龍を倒して、戻って来るはずだ。
その時、風龍の雄叫びが大地を揺らした。
「嘘だ……」
俺はただぽつりと言った。
そんな、ミラさんが負ける訳ない!
絶対、何かの間違いだ。
すぐに戻って来るって、言ってたんだ。
「ネロ、行こう。きっと……ミラさんが待ってる」
そう。きっとぎりぎりの戦いだったんだ。
ぼろぼろかもしれないから……俺達が守らないと。
俺たちはミラさんの元へ向かう。
少し歩くと、木々が、地面が消し飛んだ更地に変わる。
これが……ミラさん達の戦いの跡。
今まで見た戦いの中でも、一番凄まじい痕跡。
きっとこの光景の中心にミラさんが居るはずだ。
歩いてしばらく、遂にミラさんの後ろ姿が見える。
周囲に風龍の姿はない。
「ミラさん! 大丈夫!?」
俺は叫ぶと、傍に駆け寄る。
そこで初めて気付く。
ミラさんが既に死んでいることに。
「ガウ?」
ネロはミラさんのすぐそばに駆け寄ると、何度も声をかける。
「ガウ! ガウッ!」
けど、ミラさんからの返事はない。
ネロは何度も、何度もミラさんの顔を舐める。
「ガウウ? ガウッ! ガウッ!」
ネロは起きてよ、と言わんばかりにミラさんの顔をその前脚でぺしぺしと叩く。
その様子を見て、俺は何かが溢れそうになる。
「あ、ああ……嘘だ。嘘だああああああああああああああああ!」
俺はただ叫んだ。
「ガウウウウウウウウウ!」
ネロも吠えた。
俺とネロはしばらくただ泣いた。
泣きつかれた後、襲ってきたのは怒りだ。
ミラさんを殺した風龍、そして何も守れない自分への怒り。
俺が弱いから……助けられなかったんだ。弱いから! 邪魔にしかならなかった!
弱いのは……罪なんだ。
強くならないと……。
「ネロ、強くなるぞ。そして……必ずミラさんの仇を取る!」
「ガウッ!」
俺はミラさんを見る。
このまま放置なんてできない。
「……埋めないとな」
これ以上ミラさんの遺体を傷つけさせる訳にはいかない。
俺たちはこの更地に穴を掘った。
穴を掘る道具なんて何もない。
俺が尻尾を使い懸命に穴を掘る。
ようやく完成した穴にミラさんを入れた時、背後から気配を感じる。
しかも複数だ。
「こんな時に……目的はマザーの肉か?」
姿を見せたのは二十を超えるコボルトの群れ。
コボルトは答えることはなく、武器を持つ。
コボルトとは未だに一対一でしか戦ったことはない。複数相手なんて間違いなく逃げるべきだ。
だけど……目障りだ。
「やらねえよ……お前等如きにな!」
俺は怒りのまま、コボルトに襲い掛かる。
手作りの盾で守るコボルトに、無理やり尻尾の振り下ろしを叩きこむ。
その一撃は盾を粉砕し、敵を砕く。
まず一匹。
だけど、まだまだ数が居る。
ネロも必死に戦っている。
まだ幼いにも関わらず互角以上に戦えている。
既に一時間以上尻尾を出していたせいか、霊気も少ない。
俺は今殺したコボルトを尻尾で突き、霊胞を取り出し食べる。
体が熱くなると共に、霊気の回復を少しだけ感じた。
どこまでいけるか分からないが。
「ミラさんの死体を穢すのは絶対に許さない。一匹残らず、殺してやる」
「ガウッ!」
命がけの戦いが始まった。
どれほど戦っただろうか。
意識が朦朧としている。
何個の霊胞を喰らったかも覚えていない。
体が返り血と、自らの血で染まっている。
もう殆ど尻尾を維持できていない。
ネロも必死で健闘してくれたが、もうぴくりとも動かない。
だけど、敵もあと一匹。
俺は最後の一匹を仕留めるために走る。
だが、そこで尻尾が遂に消えた。
霊気切れだ。
尻尾を失ったのを見たコボルトが勝機を感じたのか襲い掛かって来た。
敵の剣が腹部に突き刺さる。
「ぐうっ……」
だけど、俺は踏みとどまって敵の剣を持つ腕を掴んだ。
「痛いなあ……けど、お前も死ね」
俺は持っていた剣で、コボルトの首を落とした。
俺は倒れそうになる体をなんとか支える。
駄目だ……血が足りない。
けど、まだ死ねない。
俺は朦朧とする意識の中、目の前のコボルトの霊胞を取り、喰らった。
回復……は無理か。
俺はその場に倒れ、意識を失った。
◇◇◇
突然の頂上決戦によって大きく地形の変わった森の一部。
リオルが倒れた後、そこに足を踏み入れる者が居た。
「ここが、風龍が戦った跡か。凄まじいな」
そう言ってやって来たのは鍛えあげられた体を持つ長身の女性。
美しい金髪に、整った相貌をしているが、顔の右目側に大きな縦の切り傷が見える。
レザー製の鎧を纏っており、胸部が大きく膨らんでいるのが分かる。
輝く剣を腰に下げており、傷だらけの体が、彼女が戦士であることを示していた。
彼女はゆっくりと中心に進み、穴に入っているミラの死体を見つける。
「これは……エンペラーレオパルドか⁉ 伝説の霊獣じゃないか。厄災級の霊獣がぽんぽん出てくるこの島はやはり異常だ」
そう言いながら周囲を見渡すと、リオルが倒れていることに気付く。
「なぜ人間の子供が⁉ 悪いが、子供の面倒を見る余裕はない。すまないな」
彼女はそう言って、その場を通り過ぎる。
だが、その後一度だけ振り向いて、ため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます