第18話 王者
『別れは終わったか? 人の子を育てるなど、お前も変わり者よな』
風龍が尋ねる。
『あら。子供に獣も人も関係ないでしょう?』
『ふん。そう考えるのはお前くらいよ。人の子など、勝手に死ぬ。事実、この島の人間は絶滅した。まあ、良い。いい加減決着をつけようではないか。島の王者は一頭で十分だ』
風龍はそう言うと、全身に風を纏わせる。
『私だけでね』
ミラも全身を自身の影で覆う。
風龍は口を開くと、巨大な風で作った球を生み出し、放つ。
それに合わせるようにミラも口を開き、黒い光を集めた球を生み出し、放った。
二つの球がぶつかり、爆ぜる。
その勢いは凄まじく、周囲数百ユードが全て消し飛んだ。
砂煙が周囲を覆うも、風龍はその翼を一度羽ばたかせ、砂煙を吹き飛ばす。
その目がミラを探すも、周囲からミラが消えた。
(逃げたか? いや、それはない。影に潜ったな)
風龍は空へ舞い上がると、再び口元に風を集めて、咆哮と共に放った。
その咆哮は周囲の地面を削り、抉る。
だが、ミラが地面から出てくることはない。
(どこに……)
そう考えていた瞬間、自らの翼によって、自分自身にできていた影からミラが突如現れ、その鋭い爪が翼を裂く。
「ガアアアアアアアアアアア!」
翼を大きく裂かれた風龍は悲鳴を上げると、そのまま地面に落ちる。
落とした風龍と仕留めようと一気に攻めたてるミラ。
だが、その一撃は風龍に止められる。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
怒号をあげる風龍の目は血走っていた。
風龍の本気の一撃はミラの影の鎧を貫き、体を大きく抉る。
「ガウウウウッ!」
風龍はその手でミラの頭を掴むと、地面に叩きつける。
凄まじい轟音と共に、地面が割れた。
(やっぱり……勝てないか。ごめんね、ネロ、リオル。もっと一緒に居てあげたかった。けど、貴方達なら……この島でも生きていけるはずよ)
血塗れの朦朧とした頭で、我が子達のことを思うミラ。
先ほどの一撃の衝撃により、リオルから貰った花冠が千切れ、地面に落ちた。
(ああ……せっかく作ってもらったのに)
悲しそうな目でミラはそれを見つめる。
『すっかりぼろぼろになったお前にぴったりの薄汚れた花の首輪だ』
『我が子がくれた、なによりも価値のある宝物よ。光物にしか興味を示せないトカゲにはわからないでしょうけどね』
『ふん、くだらん!』
風龍は花冠をその足で踏みにじる。
『下衆が……!』
『弱くなったな。母になったせいか。昔のお前はもっと強かった』
『勘違いしないでよね……今の私の方がずっと強い!』
その言葉と共に、ミラの全身から影が放出させる。
その影は周囲を全て呑みこみ、遠くの木々まで届いた。
周囲の影が全てミラの口元へ収束していく。
今までとは規模の違うその様子に、風龍は本気の一撃がくると悟る。
「ガアアアアアアアアア!」
今すぐ風龍はミラの息の根を止めようと、その爪で頭を狙う。
だが、もう遅い。
『アルカトラズ』
ミラの口元から、収束した影が一度に閃光のように放たれる。
風龍は間に合わないことを悟り、その翼を折りたたみ、全身を守りで固めた。
その影は風龍に当たり、そして爆ぜた。
影は膨張し約半径千ユードを全て呑みこんだ。
全てを呑みこみ消し去った後、その場に残ったのは翼が殆ど消し飛び、首元の鱗も全て剥がれ落ちたぼろぼろの風龍の姿だった。
ただ、あの一撃を耐えきったのは全ての攻撃を通さないと言われる龍鱗(ドラゴンスケイル)のお陰と言えるだろう。
「フゥーフゥ―」
ぼろぼろの風龍は倒れ込むミラの元へゆっくりと歩む。
『死にぞこないの女豹が……』
怒りの籠った風龍の一撃は、ミラの心臓を貫いた。
(あの子たちの成長を見れなかったのだけが心残りね。私の可愛い子供たち……強く生きて……)
ミラはそのまま動かなくなった。
(ぐう……まさかまだこれほどの力を残していたとは。ここまでやられたのは初めてだ。中々治るまい。霊胞を……)
風龍はすぐさまミラの霊胞を体内から取ると、そのまま一口で食らいつく。
その瞬間、風龍の体がぶるりと震え、熱くなる。
(これだ……! もう数十年間は感じていないこの感覚! 奴の命は、俺を更なる高みへ導く!)
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
風龍の雄叫びが島中に響き、大地が揺れる。
それはまるで風龍がこの島の王者であることを宣言するかのような雄叫びであった。
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