第13話 可愛い

 夜、練習後に疲れて洞穴に戻ると、ネロが俺の腹にダイブしてきた。


「ぐえっ」


「ガウーーーー!」


 ネロはずっと待っていたのか、尻尾をぶんぶんと振りながら俺の顔を舐め回す。

 その様子が可愛らしく、俺もネロを撫で回した。


「よしよしよしよしよし!」


 腹を思い切り撫でると、でろーんと体が伸びる。可愛い。

 そのお腹に俺は思い切り顔を埋めて息を吸う。

 落ち着く、良い匂いがした。


「ガウガウッ! ガウッ!」


 ネロは遊ぼうよ、と言わんばかりに俺の周囲を回る。

 いつもの遊びをご所望のようだ。

 いつもの遊びとは、ネロを上に投げてキャッチするという遊びである。


「よし、行くぞ!」


「ガウー!」


 俺はネロを上空に放り投げる。

 キャッチした後も、何度も投げる。


「ガウッ!」


 もっと高く投げろと、ネロが上を指す。

 これ以上投げると、天井に当たるぞ、と思いつつ俺はぎりぎりを狙い投げる。


「ガウッ⁉」


 あっ、当たっちゃった。

 ネロが天井にぶつかり、悲鳴をあげる。

 やってしまった……。


 ミラさんの方を見ると、呆れたような顔をしている。多分。

 だが、ネロは全く懲りずに外でもっと投げて、と俺を外に連れ出そうとする。

 それを見たミラさんが俺とネロを咥えて、外に連れ出した。


 え……嫌な予感がする。

 ミラさんは外に出ると、そのまま俺とネロを思い切り上空に投げた。


「ええええええええええ!」


 普通に十ユード以上投げられる俺。


「ガウーーーーーー!」


 大喜びのネロ。

 悲鳴を上げる俺。

 これキャッチミスったら、死ぬんだけど!


 落下する俺をよそに、ミラさんはのんびり欠伸をしている。

 え……死ぬ⁉


 だが、俺とネロは網状になった黒い何かに受け止められる。

 その網は俺達を受け止めると、ミラさんの影に戻っていった。

 さっきの網は、ミラさんの影でできているのか?


 俺はミラさんの能力の一端を垣間見た。

 一方、ネロは空を飛べたと思ったのかご機嫌だった。

 その後ネロは、外で投げるようにおねだりするようになった。


 何回キャッチ失敗しても、ネロは投げて欲しがるのだ。

 だが、そんなネロも愛おしい。

 沢山遊んだ後は、ネロを抱き締めて寝る。


 ネロを抱き締めると、ネロはごろごろと喉を鳴らす。

 その音が好きだ。

 そして俺はミラさんに抱き締められて寝ていた。

 どんな布団よりも暖かくて好きだった。 



 ネロたちと生活して一か月を経とうとしていた。


少しずつ霊気を扱いも上達していった。


 夕食後、外に出て霊気を左手、右手、左足、右足と順番に移動させる練習をしていると、ネロが膝の上に転がって来た。


「今、特訓中だよ、ネロ」


「がう~」


 そんなこと知らないと言わんばかりに、転がっている。


「仕方ないなあ。けど、ネロもミラさんみたいに強くならないといけないんだぞ?」


「がう?」


「分かっているのか?」


 俺はネロのほっぺを両手で引っ張る。


 可愛い。


「ぎゃう~」


 ネロもいつかミラさんみたいに十ユードを超えるサイズになるのだろうか。


 実際ネロは既に成犬くらいの大きさになっている。


 ミラさんはこの島の生態系でも頂点に近いことを考えると、ネロもそこまで強くなる可能性はある。


 ネロの腹を撫でていると、いつの間にかネロは眠っていた。


 う~ん、飼い犬のような危機感の無さを感じる。


 俺はネロを膝に乗せたまま、地面に倒れ込む。


 満点の夜空が広がっていた。


 そんな時、一瞬空が光る。


 流れ星かな?


 まあ、いいか。


 俺は気にせず空を見る。


 この島でも空は綺麗なんだな、と思った。


 今までは空を見る余裕すらなかったのだ。


 最近は幸せだなあ、と思った。


 ネロとミラさんと、穏やかな日々を送っている。


 こんな幸せが続けばいいのに、と思う。


 俺がなぜこんな所に居るのか、謎は絶えない。


 未だに人と会うことはない。


 この島に、人は居ないんじゃないかと思い始めてきた。


 どこにいけばいいのか。どうしたら出られるのか。分からないことだらけだ。


 けど、夜空は綺麗で、ミラさんもネロも優しい。全てが悪い訳ではない。


 ここでネロたちと生きるのも悪くない。


 そう思えた。

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