第12話 ミラ
その日夢を見た。
幸せだった頃の夢だ。
畑を耕して、夜は父さん母さんとご飯を食べる。
決して裕福じゃないけど、充実した日々を思い出した。
すっかり太陽が活動を始めている頃、ようやく俺は目を覚ます。
頭がすっきりしている。
こんなに熟睡したのはいつ以来だろう。
親豹の体が暖かく、安心感があった。
親豹は俺が起きたのに気付いたのか、ぺろりと顔を舐めた。
それがなぜか嬉しかった。
「おはよう」
「ガウ」
俺の挨拶に親豹が返す。
挨拶を返してくれる存在が居るだけで、心が躍る。
俺は寂しかったのかもしれない。
いつまでも親豹って呼ぶのもなあ。
「ねえ、名前は?」
「ガウ?」
親豹に尋ねるも当然だが返事はない。
うーむ。俺より大人? に名前を付けて良いものか。
まあ、いいか。
本じゃ確かネロの親猫の名前がミラだったな。
「じゃあ、ミラさんって呼ぶ!」
「ガウ!」
いいのか?
まあいいや!
敬意を込めてのさん付けである。
ミラさんはたまに姿を消して、俺達にご飯を持って来てくれる。
一回、十ユードを超えるあの巨大猪の死体を持ってきたときには恐怖を覚えた。
「ここまで強いのか……」
その時、悪い発想を思いつく。
その巨大猪の霊胞を食べればもっと強くなれるんじゃ?
巨大猪の霊胞は、巨大だった。
霊胞に手を伸ばそうとした瞬間、ミラさんが一口で霊胞を呑みこんでしまった。
ミラさんはこちらをじっと見つめてくる。
ぐう……自分でとれと言うことだろうか。
俺は再び鍛錬を始める。
今はミラさんの元でゆるゆると過ごしているが、いつまで守ってもらえるかは分からない。
今練習中なのは霊気の扱いだ。
赤猿たちの戦いでも思ったけど、俺は防御力が低い。
体に霊気を纏わせることができれば、怪我の数は減るはずだ。
尻尾に纏わせることはできたけど、体に纏わせることは未だにできない。
尻尾に比べて難易度が高い。
うんうんと唸りながら練習していると、ミラさんがこちらにやってきた。
珍しくミラさんは今日、怪我を負っていた。
いつも傷一つ負わないのに珍しい。
ミラさんを超える霊獣が居るこの島はやはり異常だと言えるだろう。
気にせず霊気の扱い方の練習をしていると、ミラさんから突然圧を感じた。
圧倒的格の違いを感じされる霊気。
その霊気は周囲に影響を与え、付近の霊獣達が一斉に逃亡し始めた。
ミラさんはすぐに霊気を放つのを止めると、ゆっくりと右前脚に霊気を集中させた。
肉眼でも分かる程の霊気が、右片脚に集中している。
ミラさんはその後、右前脚に集中させた霊気をゆっくりと、ゆっくりと左前脚に移動させる。
ミラさんは俺のしている練習に気付き、教えてくれている。
そう感じた。
確かに霊気は移動できるのだ。
俺はミラさんを見習い、ゆっくりと片手に集中させることにする。
全身に霊気は確かにあるのだ。
それを一か所に集めるだけ。
俺は目を瞑り、体内にある霊気を意識する。
そしてそれを少しずつ全身に纏わせるようにイメージする。
全身に纏わせた霊気を、少しずつ、少しずつ左手に集める。
体中から汗が噴き出た。
疲れる。
だけど……慎重に。
焦ると霊気が一瞬で霧散してしまう。
十分以上の時間をかけ、ようやく俺は左手に霊気を集めることに成功した。
「はあ……はあ……」
生命力を左手から感じる。
俺はその左手で近くの木を殴る。
その一撃はその木を大きく揺らした。
今までと全然違う!
威力が段違いだ。
どうだ、とミラさんの方を見ると静かに前足で頭を撫でられた。
柔らかい肉球が心地よい。
少しだけ頬がにやつく。
いや、喜んでいる場合じゃない!
俺はすぐに腰を下ろす。
霊気をだいぶん消費した。
けど、確かに霊気を尻尾以外にも纏わせることができるようになった。
今後は全身に纏わせながら戦闘できるようにしないと。
やることは一杯ある。
その後も俺は練習を繰り返した。
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