第7話 訓練

 肩はまだ痛む。

 このまま死んでしまえば楽になるかとも思った。

 けど、まだ俺は何も分かっていない。


 俺は何者なのか。

 この尻尾は衝撃的だったけど、これが無ければ死んでいたのも事実だ。


 これは俺の唯一の武器。

 これを活かして戦うしかない。

 せっかく狼を殺したんだ。


 食事にしよう。

 俺は狼を解体して、肉を食べる。

 血も飲んで体に栄養を送る。


 貴重な栄養源だ。

 解体途中に俺は再び霊胞を見つける。

 俺は霊胞を食した。


「まずい……」


 だが、食べた瞬間、体に力が漲ったような気がする。

 効果があるのかはっきりと分からない。

 けど、これからは霊胞も食べよう。


 俺は食べ終わった後、再び洞窟を目指して歩く。

 洞窟に辿り着いたのは日がすっかり暮れた真夜中だった。




 翌日。


 肩の傷は少しずつ治ってきている。

 割と重傷だったことを考えるとやはりこれは獣人種の血のお陰だろう。

 謎の血に助けられているのだ。


 けど、それだけでは生きてはいけない。

 俺は訓練することを決める。

 数日間の間に、既に数回死にかけている。


 このままでは近いうちに殺されてしまうだろう。

 自分が何者か、など知りたいことは沢山あるがまずは生き残ることに集中しよう。

 俺は尻尾を生み出す。


 今唯一にして最大の武器である尻尾について調べる。

 長さは一ユードとちょっとが限界。


 太さは〇・一ユード程。

 鱗で覆われており、結構硬い。槍でついてみたけどびくともしない。かなりの硬度がありそうだ。

 持続時間は二十分程でそれを超えると消えてしまう。


 昨日までなかったはずなのに、まるで初めからあったかのように自由に扱える。

 俺は尻尾をムチのようにしならせて、木に叩きつける。

 鈍い音と共に、木が倒れた。


 いける。かなりの威力がある。

 俺は尻尾の強さを確かめるために獲物を探す。

 少ししてネズミを見つけた。


 背後からゆっくりと近づくと、思い切りその尻尾を上から振り下ろす。


「ギュウイッ!」


 ネズミはその一撃を受け悲鳴を上げる。


「勝った……いける」


 やはり強い。おもちゃのような槍とは比べものにならない。

 今回の目的は肉ではない。


 速やかに解体して、霊胞を取り出す。

 これが目的だ。


 食べると、体が熱くなり、尻尾が少し引き締まった感じがした。

 しばらく休んだ後、尻尾を出して持続時間を調べる。


 体感だからなんとも言えないけど、おそらく一分程長い。

 予想が当たった。


 やはり霊胞は体を強化する力がある。


 これは大きな希望となる。

 食べれば食べるほど強くなるのなら、いつかあの化物達を渡り合えるはずだ。

 尻尾を使って様々な動きをとる。


 メインは締め付け、叩きつけ、突きの三つだな。

 突くなら、もっと硬度を上げたいな。


 俺は筋肉を引き締めるイメージで、尻尾に力を入れる。

 手で叩くと、硬度が増していることが分かる。

 これなら突きでも武器となるはずだ。


 だけど、勿論欠点もあった。

 尻尾の硬度をあげると当然だが、持続時間が落ちる。


 午前中は尻尾を使った訓練に励み、午後はひたすら霊獣を狩って霊胞を喰らった。

 そしてネズミの霊胞をもう十は喰らった頃に気付く。

 ネズミの霊胞を食べても何も感じない。あの熱い感覚がないのだ。


 同じ種類の霊胞では意味がないんだろうか?

 ネズミ以外を狩るために周囲を散策すると、一本の立派な角を持つ兔を見つけた。


「美味しそうだ」


 俺は木々に登り、兔めがけて上から思い切り尻尾を叩きつけた。


「キュウウウウ!」


 一角兔は可愛い悲鳴を上げて、絶命した。

 俺は両手を合わせて拝んだ後、解体して霊胞を食べる。

 体中が熱い感覚を覚える。力が漲る。


 この感覚が好きだ。

 霊獣の持つ霊気が、体中に満ちていく。

 この感覚を覚えて五回を過ぎたころ、明らかに身体能力が上がっていることに気付く。


 良い調子だ。


 予想だけど、この霊気を使って尻尾は生まれているんじゃないだろうか。

 霊胞を見た時に感じる違和感、それこそが霊気な気がする。

 霊気を使えばもっと色々できる気がするんだよなあ。


 尻尾を生み出す以外にも。

 農業以外もしていればよかったな。

 まさか毎日命がけでサバイバルするなんて想像もしていなかった。


 霊気を使えば、更なる尻尾の強化も可能なんじゃないか?

 霊気で尻尾を覆うようにイメージする。

 うーん、できないな。


 いや、一度の失敗じゃ何も分からない。

 何度でもチャレンジしよう。

 霊気が足りないのかもしれないし。


 俺は試行錯誤を繰り返した。

 ちなみに一角兔の角は槍の先として使うことにしました。

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