第8話 霊気
尻尾の鍛錬をして、もう三週間が過ぎた。
だが、未だに霊気を使いこなすには至っていない。
午前の鍛錬を終え、再び狼狩りに向かう。
ネズミや兔じゃもう霊気の上昇を感じ取れないのだ。
狼の群れ相手はまだ厳しい。
はぐれ狼を探す。
「中々いないな……」
森をかき分け進んでいると、ようやく一匹の狼を見つける。
背後から近づいていると、狼が俺の気配を感じ取ったのか走り始めた。
「ばれたか……!」
身体能力が強化されたのもあり、なんとか追いすがる。
もう少しで、追いつく。
そう思った瞬間、背後から殴りかかられる。
「えっ……⁉」
間一髪で躱した俺は、背後を向き尻尾を出す。
そこには何度か見たことのある赤い猿が立っていた。
「キキッ!」
周囲の木々を見渡すと、枝の上に乗っている赤猿が他に四匹居た。
囲まれている。
夢中で追っていたから気付かなかった。
まずいな……。
五匹の猿の中で一匹だけ大きい個体が居る。
おそらくあれが群れの長(おさ)だろう。
長と目が合った瞬間、俺はぞくりと感じる。
奴は霊気を使える。はっきりと見える訳じゃないけど、奴は何かを纏っている。
他の個体より上だ。
赤猿の長は手に持っている石を、こちらに放ってきた。
その石は当たることなく、俺の少し前の地面に突き刺さる。
凄い速度だ。
当たるとまずい。
俺は槍を構えると、他の猿達が一斉に襲い掛かって来た。
猿の蹴りを俺は尻尾で受け止める。
尻尾なら止められる。
けど、体にくらったらまずい。
俺は尻尾を猿の腕に巻きつけると、そのまま振り回す。
「キキイーーーーー⁉」
パニックになった赤猿をそのまま、別の猿に投げつけると囲いから脱出する。
「キキッ! キキー!」
長の命令を聞き、他の猿が追ってくる。長はこちらをただ静かに見つめていた。
背後から追ってくる猿の方を振り向くと、槍で突きを放つ。
それを猿は簡単に躱すと、勝ち誇ったように笑う。
馬鹿だな……それは囮だよ!
俺は尻尾を猿の首に巻き付けると、そのまま地面に叩きつけた。
首がへし折れる音がする。
その光景に他の猿の動きが止まる。
その隙に俺はもう一匹の猿に全力で突きを放つ。
「キイイイ!」
小さな悲鳴と共に、猿が吹き飛んだ。
よし、今なら!
俺は必死でその場から逃げ去った。
しばらく走るが、追ってくる気配はない。
どうやら逃げきったようだ。
一匹なら勝てるけど、複数なら厳しいな。
赤猿の長は自分が動かないのが不気味だったな。
けど、得るものはあった。
あの時、俺は確かに猿の長から霊気を感じ取った。
あの感覚を忘れないうちに練習しよう。
霊気は体に纏えるのだ。
体を霊気で包むようにイメージする。
だけど、できない。
イメージが悪いのか。
なら、尻尾を霊気で纏うイメージする。
表面を霊気で覆うように。鱗一枚一枚を霊気で包むよう想像する。
できた!
尻尾に触れると、尻尾と指の間に何かを感じる。
霊気で覆うと明らかに硬度が上がっている。
尻尾自体が霊気でてきているのなら、霊気を二重で消費していることになる。
その仮定は当たっていたのか、尻尾は十分も持たずに消えてしまった。
「まだ実践での使用は難しいな。けど、これなら更に威力があがる」
攻撃の瞬間だけ、霊気で覆うことができるならまだ実践で使えるはず。
その後何度も試したが難しく実践で使うには程遠い出来だった。
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