オオガミの遠吠え
「最後にもう一往復やって終わりにしましょう」
先生に言われて、これで終わってしまうんだなと思った。
今日の集大成をここに詰め込んでやろうと気合いを入れる。
各々が音を発しながら、四つ足で駆けていく。
僕も精一杯の音を出しながら、自由に駆けてみる。
隣の風さんに目を向けると、楽しそうに見えた。音も少し出ている。
「ぅわぉ〜〜〜ん」
突然、大きな音が鳴り響く。
びっくりして振り向くと、J先生が狂ったように舞っていた。
四つ足になって木の間をくぐり抜けたかと思うとぐるぐると回り、酔っ払ったようにうねうねと、しかも物凄い勢いで駆けている。
これは人間ではないな。
ヨダレを流し、本能のまま動く野生動物そのものがそこにいる。
僕は自分の動きを止めて見入っていた。
次の瞬間、僕の身体は凍りついた。
公園にいた犬達が飼い主を振り切って、すごい勢いでこっちに向かってきている。
その数はどんどん増えているようで、何十匹、いや何十頭もいるようだ。
僕は身の危険を感じて、動く事も出来ずにその場に立ち尽くしていた。
あろうことか。
風さんがJ先生を追っている。
さっきよりもずっと野生に近い動きにはなっているとはいえ、まだまだか弱い人間の域を脱していない。
危ない! 助けなくては! 何とかしなくては!
このままでは犬達に殺されてしまうだろう。
公園中がパニックに陥っている。
犬の飼い主達は慌てふためき、恐怖で泣き叫んでいる人もいる。
何とかして止めなくては!
突然、少し前に読んだ「トーラスというエネギーの流れ」を感じた。
今なら出来るかもしれない。
僕はオオガミだけどオオカミになれるかもしれない。
「止まれ」という思いを思いっきり込めて、腹の底から音を出してみた。
「ぅわぉ〜〜〜〜〜ん」
全身が鳴った。
自分が出した音かどうか分からなかった。
止まった。全てが止まったと思った。
僕の記憶はここで途絶えた。
★
目が覚めた。眩しい。
ここはどこだ? 僕は何をしている?
一瞬わけが分からなかったが、ここは僕の部屋。僕のベッド。いつもと変わった所はない。
時計を見ると16:00。
こんな時間に僕は眠っていたのか? 夢を見ていたのか?
僕はJ先生のワークショップに参加していたはずだ。
そうだ、オオカミの遠吠え‥‥‥
うまく思い出せない。僕は本当にワークショップに参加していたのか? 全てが夢だったのか?
そうだ、フェイスブックを開いてみよう。J先生が何か書き込みをしているかもしれない。
開いた途端に一番上に出てきた。
真っ青な空をバックに黄色く色づいた葉っぱが生い茂る代々木公園の大きな木の写真。
【素晴らしい原始歩き日和!
初参加の男女1名ずつを含む7名で、盛りだくさんの原始歩きでした。】
それだけだ。
7名だったな。初参加の男女1名ずつっていうのは、僕と風さんのはずだ。
やっぱり僕はそこにいたのだろう。
コメントが入っている。
風さんだ。
【本日はありがとうございました。先生の野生的な動きと遠吠えが夢に出てきそうです。
遠吠えをしながらの(声に出さなくても)エネルギーの通る動きを身体で感じていきたいです。】
それだけだ。何の事件も起こらなかったのだろうか?
「夢に出てきそう」か。やっぱりあれは夢だったのだろうか。
頭がクラクラする。すごく疲れている。
僕はそのまま、再び眠りに落ちた。
目が覚めた。眩しい。
ここはどこだ? 僕は何をしている?
一瞬わけが分からなかったが、ここは僕の部屋。僕のベッド。いつもと変わった所はない。
時計を見ると9:00。
またジャストタイムか。
身体中がひどく筋肉痛だ。
やはり、昨日の事は夢ではなかったのか?
J先生がフェイスブックに何か書き込んでいるかもしれない。
僕はスマホを手に取った。
ページを開いた途端にJ先生の書き込みが出てきた。
【「原始歩き」初参加の人は、今朝の筋肉痛、どうかな?】
それに対して風さんがコメントを入れている。
【筋肉痛〜は良い感じです。痛みは酷くなく、心地良い位。】
心地良い位だって? 僕は心地悪いよ。全身痛くて起き上がれない位だ。
そうだ、僕もコメントを入れてみよう。何か分かるかもしれない。
【全身ひどい筋肉痛で起き上がれません。助けて下さい(汗)】
それを入れようとしているのに、何回やってもコメントが入らない。
どうしてだろう?
考えているうちに僕は少し怖くなってきた。
僕は今、ここに存在しているのだろうか?
昨日の出来事は天国あるいは地獄で見ていたんじゃないか?
誰か教えて下さい。僕は、
突然、ある考えがひらめいた。
書いてみよう。
そうだ、書かなくちゃ。
昨日の出来事を書いてカクヨムに投稿してみよう。
投稿できるだろうか?
公開されるだろうか?
僕は一気に書き上げて投稿してみた。
お願いがあります。
僕はここに存在しているという事を僕自身が確信したい。
だから、もしこれを読んで頂けたなら、何か足跡を残して下さい。
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