初めてのワークショップ

 ワークショップというのかな?

 僕はJ先生主催のイベントに参加していた。



 J先生はマイムアーティスト。

 アートマイムってなんぞや?


【アートマイムはダンスでも無言劇でもなく、身体性演技を信条としています。


 アートマイムは何者でも無いものになることで、宇宙を生み出すものです。


 あらゆる身体表現の土台であり、到達点だと考えます。】


 ちょっと難しいけど、なんとなく分かる気はする。


 ★


 僕は半年前に退職した。

 トレランを始めて、自分のペースで野山を走ったり歩いたりするだけでも気持ち良いのだけど、もっと軽やか速く自由に走れたらどんなに楽しいだろうと思うようになった。

 もっと上手に身体を使いたい。


 本屋さんのスポーツ書のコーナーに行くと、様々なトレーニング本が並んでいた。


 昔から身体意識などに興味があったので、トレーニング本とかそういう類いの本は色々と読んできたけれど、本屋で気になるものを何冊かペラペラとめくっていく中で、新たな角度からというか、新たにワクワクを感じられる本があった。


 それがJ先生の「運動センスを一瞬で上げる!」という本だった。


 これは身体動作の極意や身体感覚が書かれた本であると同時に、なんだか哲学書っぽい本だなと感じた。


 さっそく購入して読んでみたが、僕がこの本に書いてある事で理解できているのは半分位かもしれない。

 それでも、僕なりの解釈でも「なるほど」と思ったり「へー、すごいな」と思ったり「この意識を取り入れてみよう」と思うものが多く、とても興味深く読んだ。


 先生のブログに「その人の動き・身体の使い方は、その人のものの見方・考え方を目に見える形にしたもの、ということ」と書いてあるように、思考と身体、私達が生きるこの世界を切り離して考える事は出来ないという思想が読み取れる。

 単なるトレーニング本って感じではなく、とても奥深いものだ。


 本の中からほんの一部分を抜粋してみよう。


【重要なことはただ1つ。

 エネルギーが通るかどうか? です。


 エネルギーさえ通せればどこでも何とかなります。心も身体もです。


 隙間にエネルギーは通る。


 100%自分で動いていたのでは、身体は実は機能してくれないのです。

 身体が100%機能してくれるようにするには、「動かされるように動く」ことが非常に重要なのです。】



 



 そこに強く惹かれた。


 ★


 J先生は舞台作品の発表を定期的に行いながら、様々なワークショップを行なっているとの事。


 やはり、それなりの受講料を払わなければならないのだが、何故かワンコインで受講できるというものを発見。


 しかもそれはフィールドで行う「四足歩行& アーシング」というとても興味深いもの。

 ワンコインというのは何かの罠かもしれないと思いつつも、好奇心が勝り、受講してみることにしたのだ。



 太陽の光がさんさんと降り注ぎ、11月中旬とは思えない暖かさの代々木公園。


 僕みたいな定年を迎えた一般人が参加して大丈夫なのか不安もあったが、自分のペースで行えば良いと聞いていたし、J先生の動きを見れると思うとワクワクしたものがあった。

 前日は、遠足に行く子供のようにあまり眠る事ができなかったけれど、何か素晴らしいものを習得出来るような気がしていた。



 集合場所に集まったのは、僕を含む6名の受講生と先生。

 先生は思っていたよりも小柄でおとなしそうな印象を受けた。それでもやはり常人とは何か違う雰囲気が醸し出されている。


 この中で初参加は僕ひとりで、他の人は経験者のようだ。何回も通っている常連さんもいるようだ。

 もう1人、初参加の女性が来る予定らしいが、どうやら集合場所に来られず迷子になっているらしいとの事。

 彼女が早くここに辿り着ける事を願いつつ、授業が始まった。



 皆が経験者という事で僕は少し萎縮してしまっていた。

 当然うまくなんて動けないから、恥ずかしく感じて動きも小さくなる。

 もう1人の初参加の人が早く来てくれないかなと、周りをキョロキョロしたりして、やっている事にあまり集中できていなかった。

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