ep.4 初体験はいつだって刺激的だ。それが怪盗団であれば更に。
30. 怪盗団、忘れてない?
久しぶりにネトゲをプレイしてから、また数日後。
閉店後の喫茶ハコニワの事務室。
「はい、皆ちゅーもく!」
不満げに腕を組んだ藤宮さんが、突如として声を張る。
「どうしたんですか急に」
「藤宮こーはい、グミいる?」
更衣室から丁度出てきた楪と、グミを食べていた茅野センパイがキョトンと視線を送る。
嫌な予感がするので、僕はナチュラルに窓の外を見つめる事にした。 壁、もう秋だなぁ。
「ぃんな、ぃしぃふぁりてなぃんかあ!」
藤宮さんよ、せめて食べ終わってから喋らないか。
「皆、怪盗団としての自覚が足りてないんじゃないかな!」
ようやくグミを飲み込んだ藤宮さんが、改めて声を張る。
チラッと一瞬わき見すると、藤宮さんの背後のホワイトボードには『名探偵のための、怪盗団緊急会議っ!』と大きく書かれている。
おのれ藤宮さん、バイト終わりにまた面倒そうなことを。
「特に柏くん!」
名指しで絡まれた。
仕方ないので、僕は徐に身体を向き合わせる。
「最近は全然怪盗団のことしてないでしょ!ただバイトしてるだけじゃん!」
「藤宮さん、さも学生の本分かの様に訴えて来るけど、違うからね?」
むしろバイトをしている高校生は全国に数いれど、怪盗団をしてる高校生は僕らだけなんじゃなかろうか。 犯罪、ダメ絶対。
「それに怪盗団については、メンバーが3人も集まった時点で奇跡みたいなものじゃない?」
僕の返事が気に入らないのか、藤宮さんは文字通りふくれっ面な頬を更にぷくーっと膨らませる。
「柏くん、本来の目的を忘れてないかな!」
本来の目的?
「あたしがカッコイイ名探偵になるためのシチュエーションなんだから、捕まえる怪盗団はイカしてなきゃダメじゃん!」
我儘な名探偵だなぁ。
すると、どこか申し訳なさげに楪が小さく挙手する。
「ちょっと待ってください。前々から疑問に思ってたんですが、私たちはお宝を盗む怪盗団で、藤宮さんは探偵役なんですよね?」
「うん、そだよ?」
至って純粋な目で頷く藤宮さん。
「藤宮さんは探偵役なのに、怪盗団の会議に居てもいいんですか?」
「それはいいんだよ。だって相手側の怪盗団と入念に打合せしないと、たぶんあたしに事件解決とか出来ないし。 あ、でも八百長とは違うかな、たまたま怪盗団の会議の場所にあたしがあいるだけだから」
楪、気持ちはわかるけど、真顔でコッチみながら藤宮さんを指差すのはやめなさい。
「んしょ。わたしたちの怪盗団って、いつどこのおたからを狙う?」
グミを食べ終わったのか、僕の膝元に茅野センパイが座ってくる。 かわいい。
「確かに、そもそも怪盗団って何を盗めばいいんだろう」
「それは考えるのは怪盗団リーダーの柏くんの仕事でしょ!」
ビシッと手でツッコミを入れてくる藤宮さん。
じゃ探偵の藤宮さんはここに居ちゃダメだろう。 僕は訝しんだ。
「ともかく、まずはターゲットを決めないとだね」
「そうですね。藤宮さんを名探偵として盛り上げるシチュエーションなら、やはり目立つ時間と場所は重要でしょうか」
確かに怪盗団としてターゲットを盗み出すのが、目立つ時間・場所である事は絶対条件だ。
地味な場所で地味に藤宮さんに捕まるの、深夜の公園で藤宮さんと鬼ごっこしてるのと状況的にあまり変わらない。虚しさで眠れなくなりそう。
「目立つ時間・場所……か」
ふと各々が、口を結んで考えてみる。
藤宮さんを名探偵として演出するならば、なるべく人の目が沢山ある場所が好ましい。
更に衝撃を与えるには上体の緩急、つまりギャップがある方がイイだろう。
……大衆がリラックスしている時間・場所。
「あ! スーパー銭湯とか、あいや、ごめん、なんでもない」
楪と藤宮さんの凍えるような視線を、きっと僕は忘れない。
すると、僕の膝で茅野センパイが小さく呟く。
「アカツキ花火とか、いいとおもう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます