9. 運命のイタズラ、ってやつかな(へへっ)

 再び訪れた喫茶ハコニワ。

 昨日の席を通り過ぎ、僕と藤宮さんは事務所に通される。


「茅野センパイ、入る時に店長に挨拶とかしなくていいんですか?」

「だいじょーぶ。 てんちょー、わたしのおにぃだから」


 まさかの店長、茅野センパイのご兄弟。


「店長さんも、かやちゃんセンパイみたいに小さくて可愛い人なんですかー?」

「ちがう。 おにぃは、すっごく大きい。 かわいいけど」


 あ、かわいいのは一緒なんだ。 


「というか、ここ、わたしの家だから。 何してもだいじょーぶ」


 藤宮さんと見合わせる僕。


「家みたいなものじゃなく?」

「うん、いえ。 2階でくらしてる」


 マジか。 さらっと凄い情報オープンされたな。


「憧れの喫茶家が……家……」


 味わう様に目を瞑って妄想を始める藤宮さん。


「喫茶店……家……コーヒー……事務所……名探偵……」


 きっとまたアホな事を考えているので、放置しておく。


「それで茅野センパイ、僕たち来たは良いですけど何したらいいんですか?」


 ロッカーを開けて何かガサゴソ漁る茅野センパイ。


「とりあえず、いっかい着てみて」


 手渡されたのは、昨日茅野センパイが着ていたオーバーオールの大サイズだ。


「バイトって、本当にやるんですか? 僕いままでそんな経験一度もありませんよ」

「だいじょーぶ、こーたろ、頭撫でるのうまいから」


 それと大丈夫に一体なんの因果関係が。

 客に珈琲ぶちまけた場合、丁寧に頭を撫でればいいのかな?


「それじゃ、その奥のカーテンできがえて」

「はーい!」


 茅野センパイから着替えを受け取った藤宮さんが、ウキウキで奥のカーテン室へ向かう。

 断る暇すら与えてもらえなかった僕は、とぼとぼと隣の更衣室へ向かった。







「うん、いい感じ」

「ですか? ……僕的には全然似合ってない気がするんですけど」

「だいじょうぶ、ちゃんと着れてる」

「あ、脱衣的な意味でですか」


 流石に着れます、一人でも。 立派な高校生なので。

 いや茅野センパイは一人では着れないのか? だとすると可愛い。


「……やっぱ、似合ってないよなぁ」


 鏡を再度見ても、うん、やっぱり違和感がマシマシである。

 なんかこう、どうにも隠し切れない陰オーラがオーバーオールと反しているのだ。


「あれ、柏くんもう着替え終わったの?」


 奥のカーテンから声が聞こえて、藤宮さんが首だけ出す。

 おぉ、その状態……なんていうか、ちょっと……いや何でもない。


「おー柏くん、意外に……あれ、普通に似合ってないね」


 とてもやかましい。

 僕に似合う服はジャージか体操着だと相場が決まってるんだ。


「そういう藤宮さんはどうなんだよ」


 ふふんと意気込んでから、更衣カーテンをガラッと開ける藤宮さん。


「ん可愛いでしょっ!」


 チャーミングなお団子もポップなオーバーオールに似合っているし、自信満々につつましやかなお胸を張る姿も確かに可愛いのだが。


 どうにも肯定したくないので黙る。

 あのお団子、いつか絶対捥いでやるからな。


「じゃ、こーたろはここで待ってて。 ふじみやこーはい、こっち」

「え、別行動なんですか」

「うん。 ふじみやこーはい、たぶんオーダー担当になる」


 確かに、藤宮さん料理とか出来なさそうだし。


「えぇ~! あたしの笑顔、そんなにお客さんにモテモテですかねー!」

「ううん、ふじみやこーはい、料理とかできなさそうだから」


 言っちゃったよ、茅野センパイ。


「それじゃ、こーたろのせんせー役は交代」


 忙しなく事務室から出ていく藤宮さんと茅野センパイ。


 入れ替わりで、誰かが入ってくる。


 大人びたワークキャップを深くを被って、姿勢のいいモデルの様な歩き方だ。


「新人さんですね、今日からしばらく研修係を担当します」


 知的な丸メガネは、知的な雰囲気をグッと強める。


 ベージュのエプロンを着こなした白肌の彼女は、耳に掛かった髪を掻き揚げた。


「オーダー担当の出雲崎 楪で……」

「あ」

「え」



 僕と元カノの気まず過ぎる第二ラウンド、ふぁい。

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