2. 冤罪
それから、十数分後。
僕と藤宮さんは教室で二人、隅々まで掃除している。
「ありがとうね、掃除手伝ってくれて」
「いいですよ別に」
花瓶を割ったことを自ら担任に報告した藤宮さんは、バツとして更なる教室清掃を命じられたのだ。
その横で、僕も窓ガラスを拭いている。
別に暇だったし。 超手伝ってほしそうにしてたから、藤宮さん。
「でもね? 探偵みたいな推理がしたかっただけで、最後にはちゃんと言おうと思ってたんだよ? あたしちゃんと最初に言ったし。犯人はこの中にいるって」
まさか、その中に探偵本人が含まれてるとは思わないだろ。
僕は完全に理解した。 この人アレだ。
ラノベとか漫画で例えると、面倒くさいタイプのポンコツだ。
「柏くんが推理しなければ、疑わしきは罰せずって、誰も怒られなかったかもしれないし」
あわよくば、怒られないとでも?
こいつ、どさくさに紛れて誤魔化そうとしてたな?
……とりあえず話を逸らさなくては。
「藤宮さん、探偵が好きなの? ホームズとか?」
「そうなの! 名前も近いし、いつか名探偵になる定めだと思うんだよね。 あたし」
名前が近い? へぇ藤宮さん、ハーフだったのか。
名探偵。 なるほど、さっきのを見るに迷宮確定の迷探偵だったけど。
「きみは……えっと、名前なんだっけ」
「
「タメ語で行こうよ、あたしたち同学年なんだし」
……ええなんか、ぐいぐいくるこの人。
溢れ出る陽キャオーラに干乾びかけていると、布巾を持たない手がふいに掴まれる。
「あたし、
「あ、うん。 よろしく藤宮さん」
握手する僕と藤宮さん。
あ、手汗とか大丈夫かな。 キモくないかな。
「親愛を込めて、シャーロットって呼んでもいいよ! もしくは名探偵でも!」
「あ、うん。 よろしく藤宮さん」
シャーロット、確かに名探偵シャーロック・ホームズに近しい名前だ。
「親愛を込めて、シャーロットって呼んでもいいよ! もしくは名探偵でも!」
「あ、うん。 よろしく藤宮さん」
なんで二回言ったんだこの人。
べつに呼ばないよ。
「いやさ、苗字以外で男女が呼び合うのは、親しい人とか恋人の特権だと思うから」
うわ、不満そう。
不服申し立てる半目の視線は、しばらく僕から逸れていない。
そして握手もずっとしたまま。
「じー」
「な、なに?」
というか、やっぱりクラスで話題になるだけあって美人だなこの人。
確かに、日本人の幼さが残る面影と、外国特有の煌びやかな雰囲気が上手く両立していて、アイドルとしてテレビで歌って踊っていても違和感がないくらいには整っている。
うん……ちょっとキモいな、僕。
「ううん、特に
じゃ逆になんなんだ。
……って、いや顔近いし! なになになに!
気まずさに耐えきれず、つい僕は。
「……えっと、ガチャでも引く?」
「えぇ、いいの!?」
ようやく解放された手でスマホを取り出し、ソシャゲを起動して差し出す。
どうせログインポイントで引ける、強化素材しか出ないガチャだし。
「アタリ! これアタリはどんなやつ?」
「ええっと、これかな」
ログインポイント限定のキャラで、排出率は0.0001%だ。
確かに超絶レアだし、全体ユーザーでも所持者は0.1%を切るはず。
持ってるだけでバフが掛かる、他ユーザーにマウント必須の超強キャラだ。
「出してくれたら、何でも一個いうこと聞いてあげるよ」
「え、ほんと!? マジで!?」
冗談交じりで言うと、藤宮さんは謎の小躍りしながらスマホ画面をタップした。
なんか遥か南東の地でとかで、地の恵みに感謝する民族の祭りみたいだ。
「おおおおおおおお!! でたぁー! いやっふぅ!」
「うそぉ!?」
思わず僕も声がデカくなる。
そんなバカな!?!?
サービス開始日から6年間、毎日引き続けた僕は一回も出したことないのに!?
「やっぱりいい名探偵ってのは、運に好かれちゃうものなんだよね」
いい名探偵ってなんだ。頭痛が痛いみたいな。
というか運でいいのか名探偵。
「それじゃ、お願いごとは何をしてもらおうかなー!」
しまった、してたなそんな約束。
ご機嫌な様子で、いつの間にか箒をロッカーにしまった藤宮さんが近づいてくる。
「そいじゃ、ひとまずカフェでも行ってゆっくり考えようか!」
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