3. 昼休みにボール片付ける奴は良い奴
学校を出て、少し先にあるカフェ。 喫茶ハコニワに僕らは入った。
木組みの天井と渦巻き型の照明の下の席に、僕と藤宮さんは座る。
カフェとか初めて来たけど、なかなかにおしゃれ空間だな。 なんか緊張してきた。
「ここ、最近では都心の方で新店舗を開いてるくらい話題で人気のカフェなんだよ」
「そ、そうなんだ」
なんかすごい。 女子高生とか来てそう。
「あたし、キャラメルマキアートにしようかなー」
藤宮さんに釣られて、何の気なしにメニューを開いてみる。
たっっっか! ネトゲの聖響石を何個買えるんだ!?
「いらっしゃませ」
随分と小さくて、可愛らしい店員さんがお冷を持ってきてくれた。
栗色の髪色で中性的な髪型に、触れなくても分かる発酵パン生地の頬がもっちもち。
「これ、めにゅー。 どぞ」
ぽわぽわとした雰囲気の、10歳くらいの女の子だ。
フード付きの白いパーカーの上に、真っ白なオーバーオールとスニーカー。
座っている席は机も椅子も随分高めのなので、背伸びしながら頑張って配膳してくれる。
「ふたりともせーふく、アカツキ高校?」
アカツキ高校、それは確かに僕と藤宮さんが通う高校の名前だ。
「あ、うん。 そうだよ」
「それじゃふたりとも、わたしのこーはい」
こーはい……後輩?
お兄さんかお姉さんがアカツキ高校の卒業生だったりするのかな。
すっかり相好を崩した藤宮さんが、店員さん(仮)に微笑みかける。
「店員さーん、なにかオススメとかありますー?」
「おすすめ?」
丁度配膳を終えた店員さん(仮)は、なんとか瞬きをした後にハッと答えた。
「あ、ホットココア」
ほう、一体どんなこだわりが?
「コーヒーの味しないから、苦くない」
ここカフェだよね?
ふんす、と満足そうな顔で店員さん(仮)が鼻息を吹く。
かわいい。 なんだこの生き物かわいい。
「それじゃ、あたしはホットココアで」
「あ、僕もそれで」
オーバーオールから取り出したメモ帳に注文を書き込むと、店員さん(仮)は。
「かしこまり。 ちょっとまってて」
そう言ってパタパタと走っていった。
「ねぇねぇ柏くん、あの子かわいかったねぇ」
「だね。 後輩とか、ちょっと大人っぽく背伸びしちゃうのも、あどけなくて可愛いよね」
「ねー。 小学5とか6年生くらいかな」
「じゃないかな。 店長さんのお子さんとか?」
しみじみと懐かしむように、藤宮さんが呟く。
「昼休み誰がボール片付けるとか、誰が先生に言いつけたーとか言ってた時代もあったねー」
それは数十分前のお前だろうが。
「またせた」
再び現れた店員さん(仮)は、両手で持ったお盆にホットココアを乗せて慎重に運んでいる。
茶運び人形みたいでかわいい。 え、かわいい。
「どーぞ」
再び背伸びしつつホットココアを僕たちに配膳して、店員さん(仮)が満足げに鼻息を吹く。
「ありがとう」
ココアを受け取って、女の子の頭を軽く撫でる。
「あ、ごめん! つい癖で!」
我が家の愛犬、マルは上手く待てが出来ると頭をわしゃわしゃ撫でてやるルールなのだ。
「ん」
離そうとする僕の手を、店員さん(仮)は両手で押さえた。
「こーはいのわしゃわしゃ、嫌いじゃないからいい」
えぇかわいいもっと撫でたくなっちゃう。
「こーはい、気に入ったからいっぱい食べてほしい」
「ありがたいけど、遠慮しておくよ」
店員さん(仮)は不思議そうに、首を傾げて。
「どうして?」
「お金ないので」
うん。 シンプルにお金ないんだ。
先月は推しの限定衣装ピックアップだったからさ。
「そうか、それじゃウチでバイトするといい」
バイトかぁ。
特に部活もしてないし、放課後一緒に遊ぶ友達もいないし。 願ってもない話だけど。
「こーはいがウチで働いてくれると、わたしもうれしい」
「考えておくね」
さすがに「小学生のお子さんに誘われたから来ました」じゃ雇ってくれないだろうな。
「響ぃ、注文回してくれぇ」
奥から店長の野太い声が聞こえる。
店員さん(仮)が。野生のリスみたいに小さく顔を動かした。
「呼ばれた。 行ってくる」
ペタペタと再び厨房に向かう途中で、もう一回立ち止まって。
「考えておいて、こーはい」
びしっと指を立てて、店員さん(仮)は厨房へと入っていった。
「なんか随分、気に入られてたね柏くん」
にやり、と笑って藤見さんが指先でつついてくる。
「もしかして、柏くんの子供ぽいところに共感性を感じてたりして」
「藤宮さんには負けるよ」
はは、怖いから睨まないで藤宮さん。
「それじゃ、ホットココアも美味しくいただいて帰りますか」
「ダメだよ柏くん? なんでも一つお願いい聞いてくれるんでしょ?」
ちぃ、覚えていたか。
「といっても、もうお願いする事は大体決まってるんだけどね」
「犯罪は勘弁してください」
「しないよ!? あたしは名探偵なんだよ!?」
別に名探偵ではないだろう。 むしろ犯人まである。
「まったく……あたしがお願いしたいのは、シチュエーション作りだよ」
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