ep1. 美少女名探偵が賢いとは限らない。
1. 美少女名探偵が間違えることはない
「犯人は、この中にいるっ!」
教室に女子生徒の高い声が轟いた。
「うぉあっ!?」
机に伏せて寝ていた僕は飛び起きる。 そして強く膝を強く打った。
痛い、 すごく痛い。
え、なに? なにが起こってるの? ドッキリ?
というか、あれ? 授業は?
周囲を見渡してみると、すでに教室には4人しか生徒がいない。
更に視線を上げると、時計はとっくに放課後を指している。 ……寝過ごした。
「では……まずは、事件の情報を整理してみましょう!」
ファサァ――――と揺れる制服、教卓の前で感興に湧き立つ一人のキメ顔の女子。
薄い赤髪の特徴的なお団子二つが左右に乗った髪型、輝かしい好奇心に満ちた大きな瞳と、モチモチと弾力のありそうな頬はどこか少し幼く見える。
美少女と呼ぶに遜色ないその顔たちは、友達がいない僕でも見覚えがあった。
えっと、確か同じクラスの……
暴走機関車よろしく学校中を駆け回る姿をよく見るし、教室で寝たふりをしてるとクラスメイト達の会話によく名前が出てくるのが聞こえるのだ。
「突如として消えた、教室の花瓶……そして、その犯人はこの中にいるのです」
どうやら、サスペンス劇場顔負けのクライマックスシーンらしい。
思わず藤宮さんの背後に、断崖絶壁の崖に激しく波立つ水飛沫を幻視する。
「そんな、オラたちの中に犯人が……」
「いったい誰が、花瓶をどこに隠したっていうの!?」
困惑を浮かべて、顔を見わせる男子生徒と女子生徒。
テンションマックスな藤宮さん。
そして、少し離れた席に座ったままの僕。
教室にいるのは、この4人だけだ。
「花瓶は意外にも重く、壊れた花瓶を一人で処理するのは難しい……かもしれない。 そうですよね。 佐藤さん、鈴木さん」
キメ顔で目を細める藤宮さん。
かもしれないってなんだ。 かもしれないって。
佐藤、鈴木と呼ばれた男女生徒は、腕を挙げて抗議する。
「その時間、俺たちにはアリバイがあるんでよ!」
「そうよ! その時間は音楽室に居たんだから!」
こくこく、と藤宮は頷いてから。
「……ので、彼らは犯人ではないのです」
ショッピングモールで親と他人を間違えた小学生みたいな誤魔化し方するな。
「つまり、この教室には貴方しかいなかったんですよ……えっと」
あ、僕か。
「柏です」
おっと、思わず名乗ってしまった。
「――――そうですよね、柏さん」
違います。
「いや、普通に今日の教室掃除係がとかが割っちゃって片付けたんじゃ?」
「ふふん、面白い話ですね柏さん。 作家にでもなった方がいいんじゃないですか?」
それは犯人のセリフだろう。 探偵役じゃなかったのかお前は。
「だって、授業はとっくに終わってるのに誰も柏さんを起こさずに帰るなんて、奇妙だとは思いませんか!」
びしぃ! 人刺し指を立てる藤宮さん。
奇妙だよね。 起こしてくれる友達がいないんだよ。
僕は少し泣いた。
「僕は犯人じゃないですよ。 とりあえず、ゴミ箱でも見てみましょうよ」
ゴソゴソと教室の不燃ゴミ箱を漁ると、ビニール袋が二重底になっているのに気が付いた。
僕は、ゴミ箱の底に隠されていたビニール袋を持ち上げる。
「ほら、ゴミ箱にビニール袋と新聞紙で包まれたゴミありますし」
ここに『ワレモノ注意』って書いてあるし。
少し振ってみると、カチャカチャと明らかな陶器が擦れる音するし。
「それで、今日の教室掃除係は誰なんですか?」
気まずそうに、藤宮さんが小さく手を挙げる。
「………あたしです」
じゃお前だよ犯人。
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