第13話 大人になるということ - 社会での新たな壁
Aさんが大人になり、学校を卒業して社会に出たとき、彼女は新たな課題に直面しました。場面緘黙症は子どもだけのものではありません。大人になっても、その特性は彼女の日常や仕事に影響を与え続けていました。しかし、彼女はその壁に向き合い、少しずつ自分なりの方法で乗り越えていきました。
職場での会話のプレッシャー
職場に入ったAさんが最初に感じたのは、会話が仕事に不可欠だという現実でした。電話対応やミーティング、同僚との雑談など、言葉を使わずにはいられない場面が多くありました。
「話すのが怖いわけじゃないけど、何をどう言えばいいかわからなくなる」と彼女は言います。緊張する環境では、頭が真っ白になり、結局黙ってしまうことが多かったそうです。そのたびに「もっと積極的にならなきゃ」という焦りが募り、自分を責めてしまう日々が続きました。
誤解と孤独感
職場でAさんが抱えた最大の課題は、「何も言わない人」と見られることでした。同僚たちからは「おとなしい人」「無口な人」と思われていましたが、その奥にある不安や葛藤に気づく人はいませんでした。
「場面緘黙症のことを話すべきかどうか悩んだけど、説明してもわかってもらえない気がして言えなかった」と彼女は振り返ります。無理解や誤解が、彼女をさらに孤独に追い込んでいきました。
自分に合った働き方を見つける
そんな中で、彼女が大切にしたのは「自分に合った働き方」を見つけることでした。彼女は、電話対応の少ない職場や、一人で集中して作業する時間が多い仕事を選ぶことで、自分の特性に合った環境を整えました。
また、仕事の中でコミュニケーションが必要な場面では、メールやチャットツールを活用することで、言葉を使わずに自分の意見を伝える方法を見つけました。「文字でなら、自分の気持ちを落ち着いて伝えられる」と彼女は言います。
周囲の理解を得るために
ある日、信頼できる上司に場面緘黙症のことを打ち明けたのが、彼女にとって大きな転機となりました。その上司は彼女の特性を理解し、無理に声を出させるのではなく、彼女のペースで仕事を進めるサポートをしてくれました。
「話せない自分を受け入れてくれる人がいるだけで、安心して働ける」と彼女は話します。上司の理解を得たことで、彼女は少しずつ職場での自信を取り戻していきました。
「話せるようになる」ことがゴールではない
Aさんは、社会に出てから改めて気づいたと言います。「話せるようになることがゴールじゃない。自分を受け入れ、周囲に少しずつ理解を広げていくことが大事なんだ」と。
場面緘黙症の人が社会で生きていくためには、本人の努力だけでなく、周囲の理解と柔軟な対応が必要です。彼女が見つけた働き方の工夫や人との関係性を築く力は、そんな環境を作る上での重要なヒントになるでしょう。
私たちができること
Aさんの経験から、私たちが学ぶべきなのは、「話すこと」だけを重視しない社会のあり方です。言葉以外にも多くのコミュニケーション手段があること、そしてそれを認め、受け入れることが、場面緘黙症を抱える人たちが生きやすくなる第一歩なのです。
次回は、Aさんがどのように場面緘黙症とともに成長し、自分自身を受け入れるまでの心の変化についてさらに掘り下げてお話しします。
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