第14話 自分を受け入れるという成長 - 場面緘黙症とともに歩む日々

Aさんが場面緘黙症を抱えながらも、自分自身を少しずつ受け入れていく姿は、私にとっても大きな気づきを与えてくれました。話せないことへの悩みや葛藤を抱えながらも、それを否定するのではなく、「自分の一部」として受け入れるまでの過程には、たくさんの学びと成長がありました。


話せない自分を責め続けた過去


Aさんは、子どもの頃からずっと「話せない自分」を責め続けてきたと言います。

「なんで私だけがこんなふうなんだろう?」

「普通に話せれば、もっと友達ができるのに」

そんな思いが、彼女の心を苦しめてきました。


特に周囲から「どうして話さないの?」と問われるたびに、話せない自分を否定せざるを得ない気持ちになったそうです。その結果、自分に自信を持てなくなり、どんどん孤立していったと言います。


「ありのままでいい」と気づいた瞬間


そんな彼女が変わるきっかけとなったのは、あるカウンセラーの一言でした。

「あなたは、あなたのままで十分価値があるよ」

その言葉は、彼女にとって衝撃的だったそうです。自分を変えなければ生きていけないと思い込んでいた彼女にとって、「変わらなくてもいい」というメッセージは、今までにない希望をもたらしました。


その日から、彼女は自分を「話せないからダメな人間」と見るのではなく、「話せないけれど、それも自分の一部」と受け入れる努力を始めました。


小さな成長の積み重ね


彼女が話してくれたのは、「完璧を求めるのをやめた」ということです。話せない自分を認めた上で、小さな成功を一つずつ積み重ねることで、少しずつ自信を取り戻していきました。


たとえば、職場での会議中、無理に発言しようとするのではなく、議事録に自分の意見を書き加える方法を選んだり、直接会話が難しい場面ではメールでのやり取りを積極的に活用したりしました。


「小さなことでも、『できた』と感じられることが増えると、自分を少しだけ好きになれるんだよ」と彼女は言います。


自分に合ったペースで生きる


Aさんは、自分を受け入れることで、「他の人と比べない」という考え方を身につけました。

「人それぞれ、得意なことも苦手なことも違う。それなのに、なぜ私はみんなと同じように話さなきゃいけないと思っていたんだろう?」

彼女がそう気づいたとき、初めて心が軽くなったそうです。


それからは、話せない自分を無理に変えようとするのではなく、自分に合ったペースで進むことを大切にするようになりました。


「話すこと」だけがすべてじゃない


Aさんが最後に教えてくれたのは、話すことが「社会で求められる唯一の手段」ではないということです。彼女は話せないままでも、自分を表現する方法を見つけ、周囲とつながる方法を模索してきました。


「話せる人が素晴らしいんじゃなくて、自分なりの方法で人とつながれることが素晴らしいんだ」と、彼女は言います。その言葉に、私は深く共感しました。


私が感じたこと


彼女が自分を受け入れていく姿を見ていると、「他人と比べることをやめ、自分自身を大切にする」ことの大切さを改めて感じます。場面緘黙症に限らず、どんな人にも苦手なことや弱点はあります。それを否定するのではなく、「ありのままの自分」を認めてあげることが、前に進むための第一歩なのかもしれません。


次回は、場面緘黙症に対する社会の理解を深めるために、私たちができることについて考えていきます。彼女の経験をもとに、もっと多くの人が「話せない人」の気持ちに寄り添える社会を目指していきたいと思います。

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