第12話 自分らしさを見つける - 話せない自分を受け入れるということ
Aさんが場面緘黙症とともに成長していく中で、彼女が一番苦しんでいたのは「話せない自分」を否定してしまう気持ちでした。「話さなきゃ」「普通じゃないといけない」というプレッシャーが、彼女をさらに追い詰めていたのです。しかし、彼女は少しずつその枠から抜け出し、「話せなくてもいい」という自分らしさを見つけていきました。
「話せない自分」を否定し続けた日々
学校では「話すこと」が当たり前とされます。授業中の発表、クラスでの会話、友達とのおしゃべり。どれも日常の一部ですが、Aさんにとってそれらは恐怖そのものでした。
「なんでみんなは普通に話せるのに、自分はできないんだろう?」
彼女が何度も口にしたこの言葉には、話せないことへの自己否定が強く含まれていました。場面緘黙症を理解していない周囲の言葉も、彼女を「話せないのはおかしい」と思わせる原因になっていたのです。
きっかけは「話せなくてもいい」という言葉
そんな彼女が「話せない自分」を少しずつ受け入れるきっかけとなったのは、ある心理士の言葉でした。
「話せなくても、あなたはあなたのままで素晴らしいんだよ」
この一言が、彼女にとって救いとなりました。話すことができない自分を責め続けていた彼女は、初めて「話せなくても大丈夫」と思えるようになったのです。
それ以来、彼女は「話せるようになること」をゴールにするのではなく、「話さなくても自分を表現できる方法」を模索するようになりました。
得意なことを見つけることで自信を持つ
Aさんは絵を描くことが好きでした。特に風景画を描くのが得意で、その緻密さと色使いには私も驚かされるほどでした。彼女は話せない代わりに、絵を通じて自分の気持ちや世界観を伝えようとしたのです。
「絵なら、私の中にあるものをそのまま伝えられる気がする」と彼女は話していました。クラスメートが彼女の絵に感心し、「すごいね」と声をかけたとき、彼女は初めて自分の特技が人とのつながりを生むと感じたそうです。
話せないことで失った自信を、絵を通じて取り戻していく彼女の姿は、とても力強いものでした。
「普通でなくてもいい」という考え方
彼女が自分らしさを見つける過程で、何度も繰り返し口にしていたのが「普通じゃなくてもいい」という言葉でした。話せないことで「普通」とは違う自分に苦しんでいた彼女が、それを受け入れ、さらには「普通じゃない自分」に価値を見出せるようになったのです。
「話せないことは不便だけど、それが私自身だから。無理に変えようとしなくてもいいんだと思った」と彼女は笑顔で話していました。
自分らしさを認めることの大切さ
場面緘黙症を抱える人にとって、「話せるようになること」は一つの目標かもしれません。しかし、Aさんの経験を通じて感じたのは、それだけがゴールではないということです。話せないままでも、自分を表現する方法を見つけ、受け入れられる環境を得ることで、「自分らしさ」を取り戻すことができるのです。
私が学んだこと
彼女の姿を見て、私も自分自身を見つめ直すきっかけをもらいました。完璧じゃなくても、何かができなくても、それは自分を否定する理由にはならない。Aさんの「普通じゃなくてもいい」という言葉は、私にとっても大きな励ましになりました。
次回は、場面緘黙症を抱えながら大人になったAさんが直面した社会での課題についてお話しします。彼女の成長と、今なお残る困難について考えていきたいと思います。
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