第8話 学校との向き合い方 - 理解を求める難しさ
学校は、子どもにとって人生の大部分を過ごす大切な場所です。しかし、Aさんにとっては、学校が「安心できる居場所」ではなく、むしろ「逃げ出したい場所」でした。話せないことで注目され、理解されないことで孤立する――そんな日々を過ごしながら、彼女はどのように学校生活と向き合ってきたのでしょうか。
学校でのジレンマ
Aさんはよく言っていました。
「学校に行きたくない。でも、行かなきゃいけない。」
学校に行くたびに、「今日は話せるだろうか」「揶揄われないだろうか」という不安が頭を支配していたそうです。それでも彼女は毎日教室に足を運びました。そこにあるのは、学ぶ喜びではなく、話せないことを隠そうとする努力だけだったと言います。
特に授業中、先生から当てられるのが彼女にとって最大の恐怖でした。答えがわかっていても、口を開くことができない。沈黙が続き、クラスメートの視線が集中するたびに、心臓が潰れそうなほど苦しかったと言います。
「何もできない子」という誤解
場面緘黙症を抱える子どもたちは、言葉にできないだけで、心の中では一生懸命考えています。それでも、周囲からは「やる気がない」「何もできない子」と誤解されることが多いのです。
Aさんも、先生から「どうしてもっと頑張らないの?」と責められることがありました。そのたびに、「頑張りたいけど、頑張る方法がわからない」と心の中で叫んでいたそうです。
私も学生時代、「何でそんなに影が薄いの?」と言われたことがありました。見た目や行動で簡単に評価される環境の中で、話せないことや行動しないことがどれほど重く見られるのか、Aさんの話を聞きながら改めて実感しました。
小さなサポートが大きな力に
中学時代、Aさんに転機が訪れました。それは、ある先生の存在でした。その先生は、Aさんに無理に発言を求めるのではなく、「話さなくてもいいよ」と言ってくれたのです。そして、彼女が書いたノートやプリントを通じて、彼女の考えを評価してくれました。
「話すことだけがコミュニケーションじゃない」というその先生の言葉は、彼女にとって救いでした。話せなくても自分の意見が伝わると知ったことで、少しずつ彼女は「授業に参加している」という実感を持つようになりました。
学校の理解がもたらす変化
場面緘黙症を抱える子どもたちにとって、学校の環境が理解を示すことはとても重要です。Aさんの場合、先生が彼女のペースを尊重し、話さないことを責めなかったことで、不安が少しずつ和らいでいきました。彼女が「自分の意見を伝えること」を実感できたのも、この先生のサポートがあったからこそです。
安心できる居場所の必要性
学校で「話せること」だけが重要視されるのではなく、安心してその場にいられることがどれだけ大切か。Aさんの経験を通じて、それを痛感しました。無理に話させようとするのではなく、「その子がどうすれば居心地よく過ごせるのか」を考えること。それが、場面緘黙症の子どもたちを支える第一歩になるのではないでしょうか。
次回は、Aさんがどのように自分の居場所を見つけ、学校生活を少しずつ変えていったのかについて掘り下げたいと思います。
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