第7話 専門的な支援 - 声を取り戻すために
Aさんが少しずつ話せるようになった背景には、家族や周囲の支えだけでなく、専門的な支援も大きな役割を果たしていました。場面緘黙症は「ただの性格の問題」ではなく、不安障害の一種です。そのため、適切な方法でのアプローチが不可欠です。
今回は、Aさんが取り組んだ治療や支援の方法についてお話ししたいと思います。
支援を受けるまでの葛藤
Aさんが専門的な支援を受けるようになったのは、中学生の頃でした。それまでは家族も、彼女が学校で話せない理由がわからず、「ただの恥ずかしがり屋だから」「もっと頑張れば大丈夫」と思っていたそうです。しかし、彼女が家族の前でも言葉数が少なくなり、日常生活でもどんどん自信を失っていく姿を見て、ようやく専門家に相談することを決めました。
「初めて相談に行ったとき、緊張して話せなかったけど、それでも否定されないってわかった瞬間、ちょっとだけホッとした」とAさんは振り返ります。専門家の「無理に話さなくていい」というスタンスが、彼女にとってとても救いになったそうです。
認知行動療法(CBT)の力
Aさんが取り組んだのは、認知行動療法(CBT)という治療法でした。CBTは、不安や恐怖を引き起こす考え方や行動のパターンを見直し、少しずつ改善していく方法です。
段階的な露出法
彼女が最初に行ったのは、少しずつ「話す場面」を増やす練習でした。最初は自宅で家族に向かって簡単な言葉を話す練習。その後、少人数のグループで名前を言うだけの練習に進みました。
「すぐに声が出るわけじゃなかった。でも、周りの人が急かしたり、評価したりしないことで、少しずつ『話しても大丈夫』と思えるようになったの」と彼女は言います。
不安の正体を知る
セラピーの中で、Aさんは「自分が何を怖がっているのか」を具体的に考える時間を持ちました。「話したときに笑われること」「間違ったことを言って嫌われること」。それらを少しずつ言語化することで、不安の正体をつかむことができたのです。
学校との連携
中学生のとき、彼女の家庭と専門家は学校と連携を取りました。教師に場面緘黙症について説明し、「話すことを強制しないでほしい」「彼女が話せないときは代わりにサポートする方法を考えてほしい」とお願いしました。
その結果、先生が彼女の気持ちに寄り添い、発言を無理に求めず、時にはグループ活動の中で自然に声を出せるような環境を作るようになりました。これにより、彼女の不安が少しずつ和らぎ、学校生活が楽になったそうです。
支援がもたらす変化
専門的な支援を受けたことで、Aさんは「話さなくてもいい」という安心感を得た上で、「話しても大丈夫かもしれない」という気持ちを持てるようになりました。話す練習を重ねる中で、小さな成功体験が自信を生み、少しずつ彼女の世界が広がっていったのです。
「話せるようになることがゴールじゃなくて、話せる場面を少しずつ増やしていくことが大切だと気づいた」と、彼女は言います。
専門的な支援が教えてくれたこと
Aさんを見ていると、場面緘黙症の治療や支援において大切なのは、「無理をしないこと」「少しずつ進むこと」「その人のペースを尊重すること」だと感じます。適切なサポートがあれば、場面緘黙症の人たちは確実に自分の力を発揮できるようになるのです。
次回は、学校での生活に焦点を当て、Aさんがどのように日々の課題と向き合い、どんな支えが役に立ったのかをお話ししたいと思います。
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