第6話 話すことへの挑戦 - 小さな一歩が大きな変化に
Aさんが自分の殻を破ろうとした瞬間。それは、彼女にとってとても勇気のいる一歩でした。場面緘黙症を抱えながらも、彼女は少しずつ自分の限界を超えようとしていたのです。その姿を見て、私は何度も胸を打たれました。
勇気を出して「声」を出す
Aさんが初めて教室で声を出そうとしたのは、小学校高学年の頃だったそうです。そのとき、教師が彼女に「何か質問ある?」と話しかけました。いつもなら俯いて黙っている彼女が、ほんの一瞬だけ手を動かして「うん」と書いたメモを見せたそうです。
それをきっかけに、彼女は少しずつ話す練習を始めました。最初は家族の前で、小さな声を出す練習。そして次は、放課後の教室で誰もいない場所での練習でした。彼女の話では、その一言を口に出すだけで、全身に冷や汗が流れるような感覚に襲われたといいます。それでも彼女は、「話せる自分になりたい」と願い続けていました。
小さな成功が自信に変わる
ある日、クラスメートの一人が彼女に「これ、君も見たい?」と声をかけました。彼女は一瞬固まったものの、わずかにうなずいて「うん」と口を動かしたそうです。それはとても小さな言葉で、周囲の誰も気に留めないような瞬間でした。でも、彼女にとっては大きな一歩だったのです。
「そのとき、自分の声を出すことができたって、すごく驚いたの」と、後に彼女は笑顔で教えてくれました。その小さな成功体験が、彼女の中で希望の種となり、少しずつ言葉を取り戻すきっかけになりました。
練習とサポートの力
彼女が声を取り戻していく過程には、家族や数少ない友人たちの支えも大きな役割を果たしました。家族は彼女に「話さなくてもいいよ」と言いつつ、安心できる環境を作り、彼女が話したいときにだけ耳を傾けていました。私もまた、隣に座りながら彼女の気持ちが落ち着くように、ただ静かに寄り添っていました。
無理に話させようとしないサポート。そのおかげで、彼女は少しずつ「話す」ということに対する恐怖を乗り越えていったのだと思います。
彼女の努力が教えてくれたこと
Aさんが小さな一歩を踏み出すたび、私もまた自分の過去と向き合う勇気をもらっていました。話すこと、動くこと、前に進むこと――それらがどれほど怖くても、努力し続ければ必ず変化が訪れる。彼女はそのことを私に教えてくれました。
話すことが当たり前に思える人にはわからない、話すことへの恐怖。その壁を少しずつ乗り越えていくAさんの姿は、私にとって大きな励みでした。次回は、場面緘黙症の治療や支援について、Aさんが実際に取り組んだ方法を中心にお話しします。
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