第5話 揶揄が刻む傷 - 「普通じゃない」と言われ続けて

Aさんが学校で受けた揶揄。その言葉たちが、どれだけ彼女の心に深い傷を残したのかを考えると、今でも胸が締めつけられる思いがします。子どもたちの無邪気さの裏に潜む残酷さ。それに対して、彼女がどれほどの苦しみを抱えていたのかを、当時の私たちには知る術がありませんでした。


繰り返される「なんで話せないの?」


Aさんに向けられる言葉の多くは、「なんで話さないの?」という疑問形でした。一見、悪意がないように見えるその言葉は、彼女にとっては耐えがたいものでした。「話さない」のではなく、「話せない」――この違いを誰も理解しようとしない環境で、彼女はただ黙ってうつむくしかありませんでした。


クラスの誰かが、「先生、Aさんはどうせ答えられないから指さないで」と冗談めかして言ったことがありました。その場にいたクラスメートたちは笑い声を上げましたが、Aさんの表情は硬直し、まるでその場から消え去りたいという思いが伝わってくるようでした。


私には、その気持ちが痛いほどよくわかりました。私自身も「どうせ〇〇だから」と無視されたり揶揄されたりしていたからです。言葉の暴力は、相手の存在を否定する力を持っています。それを受ける側は、「自分は間違っているのかもしれない」とさえ思ってしまうのです。


「普通じゃない」と言われる痛み


Aさんが特に心に残っていると言った言葉があります。

「Aさんってさ、なんか普通じゃないよね」

これを言った子はおそらく深い意味も考えずに口にしたのでしょう。しかし、「普通じゃない」と言われることが、どれだけ彼女の自尊心を打ち砕いたのか。Aさんは、後に私にこう言いました。

「普通ってなんだろうって、いつも考えてた。でも、私が『普通』になれる気はしなかったし、その度に自分が壊れていく気がした」


揶揄や無理解は、彼女の心を徐々に追い詰めていきました。「普通じゃない」と言われるたびに、彼女はその枠から外れる自分を否定せざるを得なかったのです。


「話せない」という孤独


彼女が言葉を発することができない理由を誰も理解しないまま、「変わっている」「怖がりだ」とラベルを貼り続けました。ラベルを貼られるたび、彼女の孤独は深まっていったと思います。


私は、自分も似たようなラベルを貼られた経験があるからこそ、彼女が「普通じゃない」と言われるたびにどんな痛みを感じていたのかが想像できました。私たちは二人でよく言葉を交わさずに隣に座っていましたが、その静かな時間が、私たちにとって唯一の安心できる瞬間だったのです。


揶揄やからかいは、簡単に相手の存在を否定する力を持っています。Aさんの場面緘黙症が揶揄の対象となり、彼女の心をさらに追い詰めたように、それは見えない形で人を傷つけ続けるものです。


次回は、Aさんがどのようにその痛みを乗り越えようと努力したのか、彼女の挑戦と小さな成功についてお話ししたいと思います。

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