第2話 場面緘黙症とは - 言葉を失う不安の正体

場面緘黙症。聞き慣れない言葉かもしれませんが、この障害は実は思っている以上に身近なものです。特定の場面で突然「話せなくなる」という症状を特徴とし、主に子どもに多く見られます。しかし、ただの「恥ずかしがり屋」や「内気」では説明できない奥深い背景があります。


Aさんが教えてくれたのは、言葉を発することが「怖い」という感覚でした。「怖い」とは何か。彼女にとって、言葉を発することで、相手にどう思われるのか、間違ったことを言ってしまうのではないか、という不安が頭を支配するものでした。それはまるで見えない壁が自分と周囲を隔て、壁の向こう側から自分をじっと見つめる視線を感じるような感覚だったと言います。


場面緘黙症の特徴


• 特定の場面で話せない

自宅や親しい人といるときには普通に話せるのに、学校や職場のような緊張を伴う環境では声が出なくなります。

• 言いたいけれど言えない

頭の中では言葉を思い浮かべていても、声が出ない。Aさんはよく「声がのどに詰まっている感じがする」と話していました。

• 外からは理解されにくい

普段は話せるのに、特定の場面で話せない姿を見た人は、「わがまま」「やる気がない」と誤解することがあります。


Aさんのフリーズする瞬間


学校で友人に「それ、何?」と質問され、答えようとしたとき。突然、彼女の体は硬直し、目を伏せたまま動かなくなったそうです。頭の中では答えが浮かんでいるのに、のどが締め付けられるように感じて声が出せなくなる。この「話せない感覚」が、彼女にとってどれほど恐怖で、どれほど悔しいものだったのか。そのとき、彼女を揶揄うクラスメートの声は、さらにその恐怖を増幅させたと言います。


話せないことへの誤解


場面緘黙症を持つ人は、自分の症状を説明することが非常に難しいです。話せない状況が続く中で、「なんで話せないの?」と聞かれるたびに、自分がさらに孤立していく感覚を抱くようになります。この「孤立感」は、ただ話せないだけでなく、人間関係全体に影響を及ぼします。


Aさんも、「誰も自分の気持ちを理解してくれない」と感じていたそうです。それがさらなる不安を呼び、学校生活をますます困難なものにしていきました。


場面緘黙症は、「ただの内気な性格」ではなく、不安障害の一種です。話せないことは、その人が選んでいるのではなく、体が不安に支配されている結果なのです。この理解が進むだけでも、場面緘黙症の人たちにとっては、大きな支えになるでしょう。


次回は、Aさんが学校生活の中でどのように孤立を感じていたのか、そして周囲の揶揄や無理解がどんな影響を与えたのかについてお話しします。

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