話したくても話せない
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 はじめに - 友人との出会いが教えてくれたこと
「どうして話せないの?」
初めて彼女が教室で固まってしまった姿を見たとき、私は心の中でそんな疑問を抱いていました。友人Aさんとは中学時代からの付き合いですが、彼女が「場面緘黙症」であることを知ったのは、ずっと後になってからのことです。子どもの頃のAさんは、とても静かで、教室の中ではほとんど誰とも話すことがありませんでした。それどころか、時々フリーズしたように動けなくなり、無表情のままじっと座っていることさえありました。
その姿を見て、クラスメートの中には彼女を揶揄う子もいました。
「また動けなくなったぞ」
「怖がりすぎなんじゃない?」
そんな心ない言葉が飛び交う中、Aさんはじっと俯き、言葉を発することも、抗議することもありませんでした。そのときの私は、彼女の気持ちを理解するどころか、「なんで反論しないの?」と思っていたほどです。
数年後、大人になって再会したAさんが教えてくれたのは、自分が場面緘黙症だったという事実でした。話そうとしても、言葉が出てこない。頭の中は真っ白になり、まるで自分が凍りついたように動けなくなる。その感覚を聞いたとき、ようやく当時の彼女がどれだけつらい思いをしていたのかに気づいたのです。
場面緘黙症は、ただの「恥ずかしがり屋」ではありません。言葉を発することができないというのは、その人が選んでいるわけではなく、心と体が不安や緊張に支配されてしまうからなのです。
私はこのエッセイを書くことで、Aさんのように場面緘黙症に悩む人たちの気持ちを少しでも多くの人に知ってもらいたいと思っています。同時に、私自身が知らなかったことや誤解していたことも振り返りながら、読者と一緒に考えていきたいです。
次回は、場面緘黙症がどのような特徴を持つのか、そして「フリーズする心」の裏側にある感情についてお話ししたいと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます