第5話
――食事会当日の事――
「ミラ、今日はなかなか派手な格好にしたんだな…」
「これくらいしないと、伯爵様の心を射止めることはできないでしょう?体も少し絞ってきたのですから、どんどんアピールしていかないと♪」
「それにしても、ミラがここまで本気だったなんてねぇ…。クレアにもこれくらいの強い思いを持っておいてほしかったものだわ」
会場に入った親子3人は、変わらずと言った雰囲気で雑談を繰り広げていた。
そこにはまだ伯爵もクレアも現れていないため、その心には余裕が見られた。
「人数がかなり多いようだな…。伯爵の奴、一体何人呼んだんだ?」
「そうねぇ…。ただの交流会にしては、人数が多すぎるような気もするけれど…」
「だよな?これくらいの人数を集めるって言ったら、なにか重要な発表をする時とかじゃないか?」
「お二人とも落ち着いてくださいませ。伯爵様の事を誰よりも分かっている私に言わせれば、きっと伯爵様は恥ずかしいのですよ」
「恥ずかしい?」
「だって、心に決めている人だけをこの会場に誘ってしまったら、人数がすごく少なくなって目立ってしまうでしょう?それを緩和するためにこうしてわざわざ多くの人数を集めて誰が本命かを分かりにくくしているのですよ。そう考えれば辻褄があうでしょう?」
「ほう…」
「なるほどねぇ…」
もっともらしいミラの推理に納得する二人。
それをどこまで本気にしたのかは分からないものの、しかしその推理は当たらずとも遠からずであることがこの後すぐに判明するのだった。
「おやおやおや、もう来てくれていたのかローグ」
「あぁ伯爵、ひさしぶ……り……」
旧友であるロベルトからそう声をかけられたローグは、そのテンションのままに返事をしようと試みた。
…しかし、その口調は一瞬のうちにどんどんと沈んでいった。
その原因は他でもない、伯爵のすぐ隣にクレアが立っていたからである。
「これはこれは、皆様おそろいのようですね。まとめて話ができそうで助かります」
「は、伯爵様!!!!」
するとその時、ローグの後ろにいたミラが勢いよくローグの前まで体を動かし、その身を伯爵の前にさらけ出す。
…その雰囲気を見るに、急いで何かを言わなければならないことを瞬時に察した様子
。
「聞いてください伯爵様!私はローグの娘のミラと言います!!そこにいるクレアの、妹でもあります!!」
「えぇ、知っておりますとも」
「ではこれも知っていますか!?クレアお姉様は私の事を何度も何度もいじめてきて、最後には私たちの家を追い出されるに至ったろくでもない人なのです!そんな人をどうして伯爵様の元に置かれているのですか!彼女の性格が目も当てられない者であることは私が一番よく分かっています!」
「……」
連続的に言葉を続けて発していくミラと、そんな彼女の言葉を何も言い返すことなく聞き続けているロベルト。
「これだって性悪なお姉様が故の行動です!私がずっと伯爵様の事を思っていたという事をお姉様は知っていて、だからこそ私への当てつけのようにこんな形をとっておられるのです!!これで私が少しでも傷つくようにと!!」
「……」
「伯爵様、どうか私の事を信じてください!絶対にお姉様の話を聞いたりしては…」
「…はぁ…」
その時、ロベルトは小さくため息をつき、ミラの事をどこか哀れむかのような表情で見つめ始める。
ミラはそれがどういう意味か分からず、思わず言葉を止めてしまう。
「…すべて、クレアの言っていた通りだったという事がよくわかった」
「!?!?」
「ミラ、クレアはさっき僕にこう言ったんだ。もしもミラが自分のしたことを私にあやまってきたら、ミラの事は許してあげてほしいですと。しかし反対に、自分の事を言い訳する言葉ばかりを並べ始めたら、その時はふさわしい罰をミラに与えてほしいと。…彼女は最後まで、もしかしたら君が心を入れ替えてくれているのではないかという事に期待をし、僕もそんな彼女の思いに乗ることにしたんだ。…だというのに、会うやいなやこんな態度をとられてしまうとは…」
「!?!?!?」
「そして、言われる者はミラだけではない。彼女の言葉に踊らされ、同じ行動をとったあなた方二人にも同じ罰を受けてもらうことといたしましょう。伯爵である僕が決定したとあれば、他の貴族たちも賛同してくれることは間違いありません。ご覚悟を」
「ひっ!?!?!?」
「そ、そんなのって!?!?」
雰囲気が一転、それまで完全に勝ちムードであったミラたちは一瞬のうちに伯爵の前に理想を打ち砕かれることとなり、その後その理想を再興するという可能性さえもけされてしまう。
「…そう言えば、さきほどこのような事を話されていましたね。どうしてこんなにも多くの人が集まっているのかと。もちろんその答えは一つであり、僕とクレアとの関係を多くの人々に知っていただくためです。僕たちは、将来を誓い合った仲なのですから」
「「「っ!?!?!?!?!?」」」
…それが3人にとってのとどめの一言であった。
それをかき消して上回れるほどの話など、そのうちの誰も持ち合わせてはいないのだから…。
「そんな…。私の伯爵様が…。あんなクレアなんかと…」
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