伯爵様と結ばれたがっている性悪な義妹。しかし伯爵様が選んだのは義妹ではなく私だったのでした
大舟
第1話
「だから何度も言っているだろう!!どうして俺の言うとおりにできないんだ!!」
バシィィッ!!!
お父様が自身の手を上に突き上げた直後、私の顔には突き抜けるような痛みが広がっていく。
全力で頬をぶたれてしまったのだろうことは、誰の目にも明らかだ。
「クレア、もうお前にかける愛情はかけらもなくなった。これまでは仮にも親子の関係にあるために同情してお前をここに置いておいてやったが、そんな気もさらさらなくなった。早くここから出ていけ。ここにはお前を引き留める者など誰もいないのだから、何の問題もないことだろう?」
どうしてお父様が私に対してここまで攻撃的な態度をとるのか、それには私にとって義理の妹であるミラが大きく関係していた…。
――――
私の本当のお父様とお母様は、私がまだ小さな時に離婚してしまい、私はお母様についていくこととなった。
最初こそ困惑していたけれど、どういうわけかお母様はすぐに新しいお父様との再婚を果たしたらしい。
それが今の私のお父様、ローグである。
そしてそんなお父様には、一人の連れ子がいた。
「私の名前はミラと言います。これからはお姉様と呼ばせていただきますね」
ミラは私よりも2つほど年下であり、二人が再婚を果たしたことで私の妹という事になった。
けれど、本当の血のつながりがあるわけではないからあくまで義理という関係。
それでも私は、ミラと本当の姉妹になるつもりでいた。
…ところがこのミラ、性格が非常に問題ありな人物だったのだ…。
「お父様、またお姉様が私の悪口を言ってくるんですの…。私は何度も何度もお姉様に謝っているのに、許してもくれません…。そもそも私はなにも悪いことをしていないのに…」
「はぁ…。クレア、どうして君は妹のことをそんなにいじめられるんだ?君には人としての心というものがないのか?」
それが、ミラが私に発する決まり文句。
彼女は事あるごとに自分の事を悲劇のヒロインに仕立て上げて、ありもしない私からのいじめをでっちあげて私の事を悪役に仕立て上げていた。
最初こそ穏やかだったお父様も言葉も日に日に厳しいものになっていき、ついには私に対して手を上げるようになっていった…。
そしてそんな光景を、ミラは非常に楽し気な表情を浮かべながらお父様の背中越しに見つめていた…。
「お姉様、ご自分が悪いのでしょう?私にひどい事ばかりを言うから…。だから私もお父様に相談せざるを得なかったのです。どちらのほうが上の立場であるのか、これでよくお判りいただけたでしょう?」
お父様が去っていった後、得意げな様子でそう言葉を発するミラ。
きっと彼女は、自分の実の父が私の事を気に入ってしまうを恐れて、こうして先手を取ってきたのだと思う。
これから家族になる関係だったというのに、どれだけ器の小さい人間なのだろうか…。
ミラの立ち回りによってお父様からの心証が悪いものになっていく一方で、ミラは私のお母様にも取り入り始めた。
もちろん、やり口はお父様に対するものと全く同じ。
自分を悲劇のヒロインに仕立て上げて、私の事を一方的に悪者にしていく。
私がいないタイミングを見計らって二人にまとめて声をかけ、積極的に自分の味方になるよう立ち回っていたのだと思う。
「…クレア、あなたはどうして新しい家族と仲良くすることができないの?ミラはあんなにもあなたの事を思ってくれているのに、あなたはその思いを拒否し続けているそうじゃない。そんなことじゃいつまでたっても本当の家族になんてなれないわよ?あなただけがそれで困ることになるのならまだいいけれど、私たちにまで悪い雰囲気が広がっていくこと、ちゃんと分っているの?きちんと改善しないとだめよ?」
お母様もまた私の言葉を信じてはくれず、日に日にミラの方にばかり気をかけるようになっていった。
そこに私の居場所など存在せず、私は日に日に家の中で孤立していった。
それは完全に、ミラにとって計画通りの展開だった。
そして話は、冒頭に戻り…。
――――
「お前は本当の家族じゃないんだ。だから誰からも愛されていないし、誰にも必要とはされていない。いなくなったとしても誰も困らないし、むしろ喜ばれることだろう。さっさと出ていってくれ」
「残念ですわお姉様…。だから私は何度もお姉様に言葉をかけて差し上げましたのに…」
「ミラが何度もお前の事を本当の家族として受け入れようとしたのに、お前はそんな彼女の思いを裏切ったんだ。もうここから考えを変えるつもりは俺にはない」
ここでもまた、ミラはお父様の陰に隠れながら私の事を見つめつつ、その表情に満面の笑みを浮かべていた。
…その顔をお父様が見たなら、自分がミラに抱く印象を大きく変えることになるのだろうけれど、可愛いと信じて疑わない彼女のそんな顔は絶対に目に入らない様子…。
「…分かりました。なら、もう私は出ていこうと思います…。今までありがとうございました…」
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