第3話
二日目は瞼を固定されて一時間まばたきできず、三日目は鼻にオオクワガタのオスをあてがわれ、一時間ずっと挟まれ続けていた。どこか幼稚にも思える拷問だったが、肉体的にも精神的にも苦痛を味わうという意味では本物だった。
三日目に医務室のベッドから思い切って脱走を試みた。しかし、医務室のドアは外側からカギがかけられていた。医者の男に両肩を掴まれドアから剥がされると、治療していた鼻に拳をめり込まされた。オオクワガタのハサミとはまた違う鈍痛が響き、どろりとした鼻血が作業服に落ちた。
「また治療せなあかんやないか」
関西弁のなまりがある医者の男はぶつぶつと文句を垂れながら鼻を再度触り始めた。
「心配せんでも手加減したから折れてへんわ。折ると変態野郎がうるさいからな」
男の言い方で拷問する男たちを変態呼ばわりしており、彼らと折り合いが悪いことが何となくわかった。それがわかったところで何になるということだったが。
十分もすると鼻血は収まった。独房に残されるとまた孤独になった。拷問は一日一回のみだった。毎朝九時になるとどこかに連れていかれるがそれ以外は独房の壁を眺め続ける日々だった。そのうち脳が働くことを辞めて思考が停止してしまうのではないかと危惧したが、むしろ壁を眺め続けるほど様々なことを思案するようになった。俺はこれからどうなるのか、明日はどんな拷問なのか、本当に一生ここから出られないのか。朝の九時は肉体と精神がすり減らされるが、孤独でいる独房では精神を集中的に削ぐ意味合いで拷問だった。むしろ、拷問中は刑務官が田崎に喋りかけ、医務室ではガラの悪い医者の男が喋りかけてくれるので、それが救いにさえなっていたことにいつの間にか気づいた。毎日痛みを与えられるが、それさえ耐えたら、誰かと話すことができるので楽しみにさえなっていた。そして、死ぬという救いになってしまっている死刑の代案として拷問刑が加えられたのに、結局この拷問刑も本末転倒になっているのではないかと内心ほくそ笑んでいた。
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