第23話 神のクローン
23 神のクローン
やがて、食事は終わった。
恋矢はきっと、吐きそうになりながら食べたペペロンチーノの味を、一生忘れない。
ココも非常に満足そうで、何時になく嬉しそうだ。
〝コヤツ、常の笑顔と食事の時の笑顔は違うな〟と、恋矢は密かに思う。
〝食事時の笑顔こそが素の笑顔なのでは?〟と恋矢は訝しんだ。
では普段の、ココの笑顔とは何だ?
彼女は何を思って、笑顔を浮かべている?
「………」
また、疑問が増えてしまった。
それも、非常に良くない方向性の。
恋矢はこの際、無我の境地に至るかと思い悩む。
彼が僅かに呼吸を乱すと、絶妙なタイミングでココが話しかけてきた。
「そう言えば、恋矢ってこういう話を知っている?」
「……え?
何?」
「うん。
これはお伽噺の類なのだけど、こういう逸話があるの」
「………」
今度は何をやらかす気だ、コヤツは?
恋矢としては気が気でないが、今はココのペースに合わせるしかない。
「人は――神様のクローン」
「は、い?」
意味が分からなくて、恋矢は眉を顰める。
彼の様子を気にする事なく、ココは語り始めた。
「そう。
人は神様が自分の姿に似せてつくった――クローンなの。
確かに神様は全知全能で完全無欠だけど、寂しいという思いはあったのね。
唯一無二の存在故に一人きりだった神様は、その孤独を埋める為に人をつくり出した。
でも、幾人人をつくり出しても、それは神ならざる存在だったの。
神は唯一無二の存在故に、どうしても完全な複製は成せなかった。
人が知恵をもちながらも全知全能ではないのは、その為。
しかも人は神と違い、性別という不完全さも併せ持っていた。
自分と同じ姿をしながらも、決して人は神足り得ない。
その事実を知った時、神様は改めて己の孤独を知ったの。
人が現世という苦界に落とされたのも、神が人に絶望したから。
現に人は神なき世界で、必死に生きてきた。
人自身が生じさせた問題に、人は向き合い続けてきたの。
それは、今でも変わらないでしょう?
神様から生じながらも、人の世は決して楽園とは言えない。
人であるが故に、人の世は地獄と紙一重。
それこそが人間なのよ。
人は人故に、全知全能足り得ない。
クローンがオリジナルに勝る事は、容易ではない。
けど、だからと言って、人は悲観しなかったわ。
神様から唯一受け継いだ知恵を使って、人は今も進化を続けている。
完全無欠であるが為にもう成長出来ない神様と、今も変わり続けている人間。
そういう意味では、今も変化を続けている人間の方が神様より幸せなのかもしれない。
永遠に孤独である神様より、多くの他人と寄り添える人間の方がきっと救いがある。
これは、そういうお話」
「………」
やはり、篠塚ココは、不思議ちゃんだ。
彼氏を自分の家に招いたというのに、そんな謎話を始めるのだから。
「それはつまり、神様より人間の方が報われているという事?
俺達って、神様より待遇がいいの?」
それでも恋矢は、ココに話を合わせる。
いや、今この時になって恋矢は、この部屋の異常さを忘れていた。
それ程までに今のココは、どこか神秘的だったから。
「うん。
それは、人それぞれでしょう。
私にはとても、万人が幸せだとは言えない。
けど一生孤独である神様に比べたら、まだ望みは残されているのかも。
でも神様から直接生じて、多くの子孫を育んだ人の祖先は、もういない。
人のオリジナルと言うべき存在は、もう死に絶えてしまった。
少なくともこの国に残されているのは、たった一人だけ」
「は、い?
それは、どういう――」
〝――意味か?〟と恋矢が尋ね様とした時、彼のスマホが振動する。
彼はこの時になって、漸く大事な事を失念していた事に気付く。
お蔭で彼は、その場を離れる時間さえ惜しんで――電話に出た。
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