第15話 核心に近づく二人

     15 核心に近づく二人


 ココと恋矢が――街に着く。


 ココは真っ直ぐ南に向かって歩いた後、直ぐに立ち止まった。


「……ん? 

 どうした、ココ? 

 腹でも壊したか?」


「違いますー。

 何で、そう言う発想になるの? 

 言っておくけど、私、生理はまだだから」


「………」


 だから、どうしてこの女はこうもあけすけなのか? 

 お蔭で恋矢は〝もしかして俺って、男と思われていない?〟と不安になる。


 弟かペットとしか思われていないのではと感じ、彼は大いに焦った。


「と、そう言えば敦ちゃんは今、生理二日目の筈。

 その所為で、大分機嫌が悪い筈だよ」


「何でココがそんな事まで、知っているっ? 

 女友達って、皆そうなのっ?」


「まあ、親しい友達とは、そう言う事も話題になるから。

 体育とかも欠席するから、直ぐに分かるの」


「………」


 生理とは無縁な男子である恋矢としては〝そうなんだ?〟と思うしかない。

 ただ男子が女子に対して生理の話題をあげたら、その時点でアウトだと言う事は分かる。


 余程親しくなければ、気持ち悪がられると思う。


「うん。

 その判断は、正しいと言っておこう。

 恋矢も一つ賢くなって、私は大分誇らしい」


「………」


 だから、コヤツは何目線で物を語っている?

 正直、恋矢は未だに、篠塚ココの全容を掴めない。


「それは、そうでしょう。

 本来女子とはミステリアスな物なの。

 いえ、男子には女子の思考が読めないが為に、自然とそう感じてしまうのね。

 男女の隔たりが、意図せず女子を神秘的にしてしまうのよ」


「そ、そうなんだ? 

 確かにココって――」


 ――ミステリアスな部分が、多い気がする。

 何しろ恋矢は三カ月間ココとお喋りしてきたのに、ココの家族構成さえ知らないのだ。


 恋矢はココが〝昨日お母さんが――〟と不満を漏らす姿さえ見た事がない。

 その事実に今更ながら気付いた恋矢は、ココに向けて何かを言おうとする。


 だが、その前にココが言葉を紡いだ。


「やはり――ここからでは無理か」


「は、い? 

 それは一体、何の話?」


 恋矢が首を傾げると、ココは彼方を指さす。


「このまま直進すると、あの防犯カメラに引っかかる。

 あれを避ける為には、大分大回りする必要があるわ」


「……防犯カメラに、引っかかる? 

 それは、つまり――」


「――ええ。

 かの人は街に紛れたのではなく、防犯カメラを避けて、移動したのではないかしら? 

 予め防犯カメラに引っかからないルートを割り出し、その通りに逃走した。

 それなら警察沙汰になっても、防犯カメラを頼りにしてかの人の逃走ルートは割り出せない。

 徹底して人目を気にしたかの人は、断固として人目を避ける事にしたんじゃないかな?」


「………」


 と、恋矢は一間空けてから、ココにこう尋ねた。


「……その根拠は? 

 変装を解いて人ごみに紛れれば済む話なのに、何でそいつはそこまでした?」


「そうね。

 これは私の憶測なのだけど、その人物はその時間に街を歩いていたら不自然なのかも。

 例えば十代の少女が夜中に街を歩いていたら、それだけで目立つでしょう? 

 警察が監視カメラを通してその点に気付けば、ちょっと厄介な事になる。

 そう感じたかの人は、街に逃げながらも防犯カメラを意識するしかなかった。

 そう考えると、少しは筋が通らない?」


「………」


「いえ。

 今のは推測というより、妄想だから説得力はないかもしれない。

 私は私の都合がいい様に、物事を考えているだけなのでしょう。

 でも私達には、敵の足取りを追う手掛かりさえないわ。

 何かのとっかかりを見つけないと、とてもかの人の足取りは追えないと思うの」


「………」


 そのとっかかりが、埋葬月人の正体という事か。

 仮にココが言う通り、埋葬月人が若い娘なら、深夜の街を歩くのは不自然だ。


 大きな鞄を持ち歩いているとすれば、その色は一層濃くなる。

 かの人が防犯カメラを気にするのは、極自然な事と言えた。


 だが、恋矢は眉を顰めながら、受け入れがたい思いに駆られる。


 彼は、衝動的に反論した。


「いや、それは確かに、ご都合的な考え方だ。

 ココが言う通りココは推理を正当化する為に、無理やりこじつけているとしか思えない。

 ヤクザの屋敷に侵入して、無事脱出してくる様なヤツが、女の子な訳がないだろう?」


「そうだね。

 私も、そう思う。

 でも、可能性は零じゃない。

 可能性を潰す意味でも、私はこの件から調査しても構わないと思う。

 もし恋矢が気に食わないなら、この時点で別行動をとってもいいけど――」


「――俺がそんな真似、させる訳ないだろうが。

 ……分かったよ。

 取り敢えず、その線であたってみよう。

 確かに俺達には、手掛かりがなさ過ぎる」


 よって恋矢は、ココの思い付きに乗る他ない。

 恋矢としては代案が無いので、ココの推理を確かめるしかないのだ。


 故に、ココ達はまずこの街の地図を購入する。

 それからココと恋矢は監視カメラを避けながら、明後日の方角に向かう。


 監視カメラを避けながら進むとどこに行くのか、ココ達は確認しようとした。

 その作業は何時間にも及んだが、やがてココ達は路地裏へと辿り着く。


「と、地図によれば、この先まで行くと街を抜けられる。

 恐らくそこから先も、敵は防犯カメラから逃れる様に移動した筈。

 逆を言えばそのルートを辿っていくと、敵のアジトに行き着くのでしょう。

 未だにこの推理が正しいかは分からないけど、今はこの線を試すしかない」


「それは分かったけど、敵は何で街を目指したんだ? 

 あの屋敷がある住宅街からそのまま姿を晦ませば、こんな面倒な真似はしないで済むだろう?」


「んー、それはやっぱり、警察沙汰になる事も考慮したからじゃない? 

 街に逃げたなら、当然警察は防犯カメラを重視する。

 必ず犯人は防犯カメラに映っていると、躍起になって調べるわ。

 でも、実際、犯人は警察のその考えを逆手にとって逃亡した。

 言わば、警察の目を誤魔化す為のフェイクね。

 私の考えが正しければ、警察は防犯カメラに執着している限り決して犯人には辿り着けない」


「……成る程」


 敵はそこまで考えて、逃走ルートを設定した? 

 敵は予想以上に用意周到で、やはり只者ではない?


 そう考えれば考える程、恋矢の胸裏には戦慄がはしる。

 先行するココを尻目に、彼は右手で自分の顔を覆った。


(……マジ、か? 

 まさか本当に……アイツの仕業?)


 眩暈さえ覚えそうな、恋矢。

 そんな彼に、更なる追い討ちがかかる。


 ココと恋矢はこの時になって――遂に目撃者を発見したのだ。

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