第14話 どう見てもデート?

     14 どう見てもデート?

 街に向かおうとする――ココ達。


 その間に、恋矢は掲示板を見つける。

 そこには〝振り込み詐欺に注意〟という警告文があった。


 彼は、素朴な感想を漏らす。


「詐欺、か。

 こういうのって〝騙された方が悪い〟って言う人も居るよな。

 でも――」


「――そうね。

 それは〝殴られた方が悪い〟と言うのと同意語だと思う」


 恋矢に同意したココは、こつこつと語り始める。


「何しろ騙す方は用意周到で、準備万端なんだもの。

 対して騙される方は、不意討ちを受けた状態と言える。

 詐欺師の最初の一手でパニックに陥り、その次の一手に対応しきる事はもう不可能。

 そうなる様に準備してきた詐欺師には、とても対応できない。

 つまりそれは夜、後ろからイキナリ後頭部を殴られる様な物だわ。

 でも殴られた方に罪があるなんて、誰も言わないでしょう? 

 それと同じ様に、やっぱり騙す方が間違いなく悪いのよ」


「……だな」


 そう納得する恋矢だが、ココがこうも熱く語るとは思わなかった。


 もしかして、詐欺にでも遭った事があるのか、コヤツは?


「政治もねー、詐欺と言える話が多いと言わざるを得ないわ。

 どだい選挙の演説だけで立候補者の為人を全て見抜くなんて、不可能なのよ。

 仮に、万人にそんな真似が出来るなら詐欺師は根絶されている。

 当然の様に立候補者達は他人に良い面しか見せないからこそ、有権者は騙されるの。

 それを全て〝有権者の見識が至らぬ所為だ〟と咎めるのは一寸酷かな」


「はぁ」


 急に話が大きくなった為、恋矢は生返事するしかない。

 実は、ココは政界進出でも目論んでいる?


 だが、それは決して現実味のない話ではない。

 ココはそれ位、成績優秀と言えた。


 特に英語、国語、数学の成績は飛び抜けている。

 文系でもあり理系でもあるのが、篠塚ココだ。


 その辺りの脳の構造は、恋矢でも知りたい位である。

 文学的才能と論理性を併せ持つ篠塚ココは、ある種の完璧超人だった。


 しかし、意外な事に世界史、科学、美術の成績は加賀敦の方がいい。

 言うなればココと敦はライバルで、学年の順位を競う立場にあった。


 因みに天井恋矢の成績は、体育以外中の中の下である。


「と言う事は、ココって将来本当に政治家になるつもり?」


 恋矢が何気なく訊くと、ココは苦笑する。


「んー。

 それはどうだろう? 

 私って権力を持った途端、暴君になるタイプだからそういうのは控えた方がいいのかも」


「………」


 それは、ちょっと分かる気がする。

 現に恋矢も付き合い始めてから、ココに振り回されっぱなしだ。


 今日もココの道楽に付き合わされている恋矢は、ココの様に苦笑いを浮かべた。


「そう、だな。

 俺もココが霞が関の住人になるとか、一寸想像がつかない」


 いや、もっと言うなら、ココには自分の身近な存在でいてほしい。

 何時までも天井恋矢の傍にいてほしいと言うのが、彼の心底からの本心である。


 それをハッキリ明言し様とすれば、きっと自分はまた照れてしまう。

 ココに〝ヒロイン属性〟呼ばわりされるのは分かり切っているので、恋矢は口を噤んだ。


「そう、だね。

 私も将来の事はまだ、想像さえつかない。

 今日を生きるので精一杯、というのが本音かな」


「へえ? 

 ココでもそうなんだ?」


 意外そうな、恋矢。

 その天井恋矢は、将来の事をどう考えている?


 そこまで思案してから、恋矢は頬を赤く染めつつ、ココから視線を逸らす。

 彼女と一緒に暮らして、仕事から帰って来た自分を出迎えるココの姿を想像した為だ。


 自分はこんなベタな人間だったのかと、恋矢は思わず自嘲した。


「んん? 

 どうしたの、恋矢? 

 また、顔が赤い。

 何か性的興奮を高める様な、如何わしい想像をしている?」


「……うるさいわ。

 俺はいま間違いなく、無心だから安心しろ」


 これも何時ものやり取りと思っていると、ココは思わぬ事を言う。


「そうなんだ? 

 無心なんだ? 

 私はいま恋矢と、デートでもしている気分なのに、恋矢は違うのね?」


「――はぁっ?」


 言われてみれば、今自分はココと二人きりだ。

 私服姿で街に向かい、一緒に歩いている。


 しかも恋矢達は自他ともに認めるカップルなのだから、デートと思われても自然と言えた。

 ココの認識に間違いはなく、恋矢の方が迂闊だと言えるだろう。


「うん。これは半分調査で――半分デート。

 そう思った方が、お互いお得でしょう――?」


「………」


 破顔するココに対し、恋矢はたじろぐばかりだ。

 それでも大きく息を吐き出した彼は、もう一度苦笑する。


「本当に……ココは俺を振り回してばかりだ」


 でも――それが堪らなく楽しい。


 彼はココと出逢ってから漸く、人生は楽しい物だと感じていた。

 

 そんな事さえ知らなかったこの少年は――やはりココと同じ様に喜々としたのだ。

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