第8話 質が悪い彼女
8 質が悪い彼女
ほぼ壊滅状態になった――濱田セキュリティ会社。
それでも研吾達は、磯部八介の護衛を続ける事になった。
何せ研吾達には、暗殺者を返り討ちにした実績がある。
自分の所の組員はアテにならないが、研吾達は頼りになると八介は評価したのだ。
よって、朝から夕方までは研吾が八介をガードする事になった。
夕方から深夜まで恋矢が警護をして、また深夜から研吾が護りを固める。
そんな生活をしている以上、ロクな睡眠もとれない。
ただ磯部八介に対する脅威が現実となった今、恋矢達も覚悟を決める必要があった。
(まあ……これも仕事か)
昨日から一睡もしていない恋矢は、僅かな微睡を覚える。
それでも律儀に登校して、居眠りさえしないのだから、彼は真面目すぎると言えた。
いや、恋矢が登校した理由は、割と不純だ。
彼はただ一目だけでも篠塚ココの顔を見て、癒されたかっただけだから。
それでも今は眠気が勝っているのか、恋矢は黄昏る様に窓の外を見ている。
窓際にある自分の席に座っている彼は、このとき漸くその事に気付いた。
「………」
篠塚ココが、ちょこんと座って、下から恋矢を見上げているのだ。
明らかに奇行と言えたが〝彼氏〟と言う立場上、無視する訳にもいかない。
恋矢は真顔で、ココの意図を尋ねた。
「……何しているの、ココ?」
彼女も真顔で、こう応じる。
「んん?
私はただ――大好きな恋矢をこのアングルから観察しているだけ」
「……はっ?」
「――って言われたら、嬉しい?」
「………」
ココは相変わらず真顔なので、冗談なのか本気なのか判断がつかない。
いや、確かにココは不可思議な事をする悪癖があった。
付き合い始めてからは、そのレベルが上がった気がする。
「……ココって、結構不思議ちゃんだよな?」
「えー」
「………」
不満そうな声を漏らす、篠塚ココ。
だが、彼女は直ぐに態度を改め、首を傾げた。
「それより恋矢こそ、どうしたの?
まるで夜から朝まで何回射■できるか挑戦した、男子高校生みたいな顔をしているよ?」
ココの表情は、まるでこの世の真理を尋ねるかの様だ。
ならば、天井恋矢はこう嘆くしかない。
「――例え方が、嘗てないほど最悪!
これも絶対、加賀の影響だろうっ?」
……やはりヤツは、始末しておくべきなのか?
恋矢は本気で、思い悩む。
「で、何回射■したの?」
「――うるせえ!
マジでうるせえから、一寸黙ってくれるかなっ?」
後、何でそんなに哀れな物を見る様な眼差しで、俺を見る?
自■しか出来ない俺を、哀れんでいると言うのか――?
天井恋矢としては、そう絶望するしかない。
「……え?
もしかして、私が手伝えば、恋矢は限界を越えられる――?」
「だから――うるせえって言っているだろうっ?
大体、限界を超えるって何だっ?
それで俺に、何の得があるっ?」
「いえ。
そこまで行けば、そこまですれば、恋矢も漸く満足感が得られると思って」
「………」
人を性欲の権化みたいに言うのは、止めてもらいたい。
天井恋矢は、極めて普通の男子高校生です。
「うん。
だから私、普通の男子は何回連続で射■できるのか、知りたくて」
「そんな事は、知る必要がありません!
いい加減、その話題から離れなさい!」
「えっと、敦ちゃんは〝精々六回がやっとだろう〟って言っていたのだけど」
「――アイツは、男子を買いかぶっている!
精々――三回がやっとだよ!」
と、結局ココの話にのってしまう、恋矢。
その事に気付いて、彼は顔をしかめた。
「そっか。
三回が、やっとなんだ?
つまり恋矢も――」
「マジで黙って下さい!
俺が悪かったから、土下座でも何でもするから、もう喋るな!」
何で今日に限って、こんなに下ネタばかり連発するんだよ、此奴?
意味が分からねえよ、本当。
恋矢としては、そう混乱するしかない。
けれど彼は、何時の間にか自分の気持ちが軽くなっている事に気付く。
……もしかして、ココに気を遣われた?
全てココの、計算通りだと言うのか……?
いや、恋矢が落ち込んでいたとしても、それは当然なのだ。
暗殺者は追い返したが、その間に恋矢は仲間を半殺しにされた。
暗殺者も取り逃がして、今後もマルタイの身を案じなければならない。
恋矢にしてみれば、画竜点睛を欠くどころの失敗ではないのだ。
せめてあの暗殺者を捕えていれば、まだ気分も変わっていただろう。
そう失意にあった恋矢を、ココはほんの五分程で元気づけた。
その事実に気付いた時、恋矢は完全に呆気にとられる。
「んん?
どうしたの、恋矢?
例のモノを酷使した、疲れが出た?」
「………」
例のモノを酷使した疲れとは、どういう意味だ?
いや、前言撤回だ。
このココに、そんな器用な真似が出来る筈もない。
偶然が重なっただけだと、恋矢は思い直す。
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