第7話 襲撃の傷跡

     7 襲撃の傷跡


 今の所――状況に変化はない。


 新手がこの屋敷を襲撃する事はなく、それでも恋矢は周囲に目を配る。

 幸いだったのは、川島達に命の別状はなかった事だ。


 ただ江夏は肋骨を数本折られ、安藤も顎の骨を砕かれた。

 川島も脊髄にダメージを負っていて、今は立つ事さえ出来ない。


 研吾は頭を抱えた末に、こう呼びかけた。


「磯部の旦那、もう大丈夫だ! 

 それよりギャラを値引くから、医者を呼んでくれ!」


 研吾が勝手に部外者を、この屋敷に招く訳にはいかない。

 よって研吾としては、八介を頼る事になる。


 と、八介は戸を開けて、顔を出す。

 彼の表情は、ここでも渋い。


「本当に、殺し屋が出たのか? 

 あんた達は、それを返り討ちにしたんだな? 

 というよりウチの連中は、一体何をしていた? 

 いや、無事なやつも居る筈だから、そいつに殺し屋の後を追わせるか?」


 ブツブツと呟く、八介。

 彼の思案を聴き、恋矢は待ったをかける。


「それは、止めておいた方がいい。

 敵の強さは、本物だ。

 追手が迫ったと感じれば、敵はあんたの部下を殺しかねない」


 恐らく彼等には、それに抗う術など無いだろう。

 だが、八介の意見は違っていた。


「構わんよ。

 それが、やつらの仕事だ」


「あんた――」


 と、恋矢は、語気を荒げ様とする。

 それを手で制して止めたのが、研吾だ。


 彼は当然の様に、その要求を繰り返す。


「それより――医者だ。

 今は態勢を立て直す方が、先だろう? 

 それともあんたは守りをおざなりして、みすみす殺されたいのか?」


「そうだな。

 医者は、必要だ」

 

 意外にも八介は、切り替えが早い。

 彼は無事な部下を捜す為、屋敷の奥に向かう。


 研吾の指示で恋矢は、八介の後についていく。

 やがて八介と懇意にしている闇医者がやってきて、彼は屋敷中に居る患者達を診察した。


 その数は、川島達を入れて、二十人にも及んだ。


「一体これはどういう事だ? 

 カチコミでもされたのか、八介よ?」


 八介より若干若いその闇医者は、ただ呆れるばかりだ。

 組員達は軽傷ですんだが、川島達は結局、真っ当な病院に担ぎ込まれた。


 これで濱田セキュリティ会社の戦力は、激減した事になる。

 研吾と二人きりになった恋矢は途方に暮れて溜息を漏らす。


「あの、所長、埋葬月人の噂が広まったのって何時だか分かります?」


「ん?」


 それでも恋矢は、妙な事を尋ねてきた。

 研吾は一考した後、こう答える。


「あれは俺の娘が中学生になったばかりだから、確か三年くらい前だと思う。

 それが何か?」


「……いえ、だったらいいんです」


〝なら違うか〟と、恋矢は思い直す。

 彼のミスは、即座にその事を確認しなかった点だろう。


 けど彼にも事情があって――恋矢は結局その件をおざなりにした。

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