第13話、スキルの謎。


 ソラの街に着くまで寝ていいと晴人に言われたけど、フェリスの事と、これからの事が脳内をグルグル駆け回って、まったく眠気が訪れない。


 途中、クレダさんを少し休ませるために、晴人が馬車の操縦を変わった。そして数時間くらい経った頃、再び馬車が止まって晴人が戻ってきた。


「そろそろ変わってもらってもいいか? 身体は休まったか?」

「もちろんでございます。はい。仮眠をとらせていただきありがとうございます」

「では引き続き頼む」

「はい。一気にソラの街に向かっていきましょう」


 クレダさんが馬車から出ていくと、すぐに馬車は少しだけ駆け足で走り出した。晴人は向かい側に座ってから、腕を上げて伸びをして足を組む。


「眠らなかったのか?」

「うん。色々と考えちゃって」

「何を考えていたか聞いてもいいか?」

「フェリスのスキルってなんなんだろうって思って……。たぶん瞬間移動は使ってそうなんだけど他にもあると思うの」

「たしかに霧のように現れたり消えたりするのは瞬間移動だろう。あとフェリスの口ぶりだとマホロに何かしようとしていたのは間違いないな」

「やっぱりそうよね。あの時フェリスの赤い眼、妙にギラギラして血のようだったの。眼に関するスキルかな? とは思うんだけど思いつかないのよね」

「眼か……。視線を合わせていたから、それはあり得るな」


 組んだ足に肘をついて顎をのせ、目を閉じて晴人は考え込みはじめた。


「今更な事なんだけど聞いていい?」


 私の声に、晴人は片目だけ開けて頷く。


「初めてこのユラの街で晴人に声をかけられた時の事なんだけど、私は橋の下に着くまでスキルを使っていたのよ。なのに見えないはずの私になんで声をかけられたの? 最初から河原にいたとしてもタイミング良すぎじゃない? って思ってたんだけど」

「それは俺には最初からマホロが見えていたからとしか言えない」

「最初から?」

「門番に追われているところからだな。気になったから俺も追いかけたんだが……」

「そこで私が引っ掻いた」

「まぁ。そういうことだな。ところでマホロのスキルはどんなものなんだ? 見えないはずとはどういう事だ?」

「ん〜。なんて言ったらいいかな。気配と姿を消せるの。あとは私と触れてる人やものも一緒に消えるっぽい。ただ中途半端なスキルで声は消せなのよね」


 モブスキルなのは内緒にしてしまった。


「諜報とか隠密系スキルのようだな。なかなかいいスキルを授かったな」

「うん」


 なんかのいい感じに解釈してくれた。しかもなんだかかっこいい。嬉しくなって、自然に口元がニコニコしてしまう。


「あ! 晴人はマンション以外には何かあるの?」

「王気。これは王族であれば生まれた時に持ってると聞いたな」

「なんか強そうだね」

「強力だが、あまり使いたい能力ではないな。両親も最後まで王気のスキルは使わなかった」

「どうして?」

「スキルを使って無理矢理、従わせるのは好きではないからな」

「うん。そうだね」


 たしかにスキルを使って従わせても、むなしいし本当の信頼関係は築けない気がする。


「あとスキルに関しては重要な縛りがある」

「どんな?」

「俺がマホロのスキルを見破れたのは、俺がまがいなりにも王だからだ。つまり階級に準じてるんだ」

「王様には私は敵わないって事ね」

「あぁ。そうだ。そしてナリディーアの階級は簡単に言えば、王、貴族、商人、平民、奴隷の順になってる」

「ん? でも私ってなんになるんだろ?」

「ユラの街の門番が呼んだのは上級兵だ。上級兵は下級貴族がなるのが普通だ。だからマホロの姿を、あの兵士が見つけられなかったとなると、今のマホロは中級貴族あたりだろうな」

「意外と上だった事にびっくりしたわ」

「中級貴族とはいえ油断はするなよ。上級貴族には気をつけろ。食えない奴らが多いからな」

「分かったわ。あ! じゃ、フェリスは下級貴族出身なんじゃない?」

「それがそうとも言い切れない。王同士はスキルは無効化される。だがフェリスの言い方だと俺の両親にさえ効いていた節があるんだ」

「王様だった晴人の両親にもスキルが効いたから、自分は王以上の存在だと思って神を名乗ってるって感じなのかな? でも私と晴人にだけ効かないスキルなんて一体なんなの?」

「今のところまったくの謎だな」


 空は闇色から群青色に変わりはじめた。車窓の外を流れていく景色は次第に白んできた。けど残念ながら霧が濃くたちこめ何も見えない。


「とりあえずフェリスの居所が分かったらいいのに……」


 私たちが話しこんでいるうちに、隣で寝てしまったアムリの身体を撫でながらつぶやく。


「そうだな。フェリスの根城が分かれば対策も立てられる。ソラの街に期待しよう」

「うん。いい情報あるといいね」


 リズム感よくカタカタ音を立てて走り続ける馬車。気持ちいい揺れに、来ないと思っていた睡魔が襲ってきた。横になって温かいアムリを抱きしめ目を閉じる。





 眩しさを感じて目が覚めた。馬車の窓から燦々と太陽の暖かい光が差し込んできている。光の感じからして、お昼を過ぎてしまったっぽい。


 寝起きで、ぼんやりする頭をフルフル振って、起き上がると毛布が体からすべり落ちた。拾いあげながら、晴人がかけてくれたと思うと温かい気持ちになる。アムリは私の隣で熱心に毛繕いの真っ最中。


 馬車の中に晴人はいない。立ち上がって御者台側のカーテンを開けると、クレダさんもいない。もしかしたら情報集めに行ってるのかもしれない。


「わぁ! まるで日本みたいね」


 そのまま窓に張りつき外を見ると、瓦屋根が懐かしい日本家屋が立ち並び、道を歩く人々は着物だったり洋服だったり和洋が混じった感じだ。地面はさすがにアスファルトじゃなくて土と砂利のようだけど、それでも結鬼村よりは文化が発展してる。様々な行商人が行き交う街だからなんだろう。



 カタン! 


 馬車の入り口のドアの開く音がして振り返ると、茶色いズボンに白いシャツを着た晴人が、肩掛け鞄にリンゴを詰め込んで戻ってきた。


「よく眠れたか?」

「うん。ぐっすり眠れたよ。おはよ晴人」

「それは良かった。おはようマホロ」


 私に向かって、リンゴを放り投げながら「美味かったからマホロにも買ってきた」と、ニッと笑む。


「ありがと!」


 両手でキャッチして、甘い香りの真っ赤なリンゴに大きな口を開けてガブリとかじりつく。酸味と甘みが絶妙に混じりあったリンゴは、ジューシーで渇いた喉も潤してくれる。


「美味しい! アムリにもあげていい?」

「もちろんだ」


 晴人は鞄からリンゴとナイフ出すと、器用に皮を剥き一口サイズにして皿に乗せ、アムリの前におく。


「にゃ〜ん!」


 嬉しそうに鳴いて、シャクシャク食べはじめた。三本の尻尾がご機嫌そうに揺れる。


「情報集めに行ってたの?」

「あぁ。とりあえずリンゴ売りのオヤジに聞いてきたんだが……」


 そこまで言ってから晴人は首を振った。成果は得られなかったようだ。何年も探ってるフェリスの尻尾が、そんな簡単に見つかるはずないからね。


「じゃ、もう少し聞いて回る?」

「そのつもりだ。クレダにも夕刻まで情報集めを頼んである。そんなわけだからマホロも一緒に来るか?」

「いいの?」

「俺とはぐれないように気をつけてくれれば良い」

「分かった!」


 初めての街探索。しかも今回は晴人もいる。情報集めが目的だと分かっていても、嬉しくてテンションが上がってしまう。

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